第43話 共に働いた者たち②

 私のもう一人の同期は海外に飛び出しました。そこで数年働いて再び東京に戻り板前として個人店で二番手としてカウンターに立っています。私より年下だが勉強熱心で寿司への熱い情熱もある。一度食べに行ったことがあります。

「海外では休日になるべく現地の人間と遊んで英語を話すようにした。わからなければその場で質問して調べたよ。苦労したね」

 隣のカウンターに座っている外国人を相手に、流暢な英語でコミュニケーションを取るかつての同期。

「ワインの勉強をしてるんだ。ソムリエの資格も取ろうと思う。休日は蔵元に行って試飲をして寿司のネタに会う日本酒の研究もしているよ」

 料理に対する情熱も行動力も差は明らかでした。私はいつから「サラリーマン板前」になってしまったのか? 自分を恥じます。

 いつからか給料や待遇の事ばかり目が行き、肝心の料理に対する情熱が冷めていることに気がついた瞬間でした。朝起きて会社に行き惰性で働く生活。

 言われたことだけやる。自分から興味を持って挑戦しない。仕事だけではなくプライベートでも生きているのか死んでいるのかわからない状態でした。何も成し遂げないままもうすぐ三十路になってしまう。本当に焦りました。

 同期の握ってくれた寿司はネタは新鮮で美味いはずでしたが、ほろ苦い味がしました。

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