同僚たち

第42話 共に働いた者たち

 振り返って考えてみると自分は決して聖人君子というわけではない。犯罪とまではいかないが悪いこともやってきたし、不真面目な部分もある。

 他人から見たら相性が悪く、一緒に仕事をすると非常にやりにくい場合だってあるだろう。頭にきて後輩に手を上げてしまったこともあるし、上の人間に噛み付いたこともある(その時はお盆で頭を殴られて、そのお盆が真っ二つに割れた)。もちろん理由あってのことだが言い訳にはならない。おそらく世界中のどんな仕事にも理不尽があり、誰かが貧乏くじを引いているのかもしれない。


 かつて入ってきたばかりの新人が私の同期にいびられていた。もちろん仕事ができなかったからではあるが、その子は夢の中でも私の同期にいびられる夢を見るようになり、ある日寮の部屋から出てこなくなり心を病んで退職した。


 ある者は元公務員という経歴で入ってきた。前の仕事先でも各部署をたらい回しにされているような問題児で退職を勧められたらしい。真面目だが天然が入っていて、気の短い先輩の格好の標的になってしまった。寿司屋では即断、即決、即行動が求められる。残念ながら最後まで周りに馴染めずに辞めてしまった。


 私の同期入社で入った人間がある日出勤しなかった。ケータイにかけても出ないし寮の部屋にもいない。心配していたが、休憩中に同期全員が事務所に呼ばれた。

「彼は逮捕されました」

 窃盗団の一味として警察にマークされていたらしく、どこかの倉庫の防犯カメラにバッチリ顔が写っていたらしい。確かに金にがめつい奴ではあったが......同期全員が驚愕した。同期入社で最初の退職者だった。


 もう一人の同期入社の人間は交通事故により二十代でこの世を去った。実家が近かった会社の先輩に車で連れていってもらい、あいつの実家に行き線香をあげた。実家が寿司屋であいつは二代目としてうちの店に修行に来ていた。家中にお酢の香りが漂っている古くて小さな店だった。遺影の中であいつは幸せそうに笑っている。トレードマークだったスカジャンが傍に置いてあった。

「友達とのバーベキューの帰りに一人で運転して電柱に衝突したの。アルコールは遺体からは検出されなかったわ。いつもぼんやりしていた子だったから......」

 あいつの母親は大粒の涙を流しながら思い出を語っていく。

「来てくれてありがとう」

 こちらが恐縮するくらい、ご両親は感謝していた。この事があり僕は精一杯生きた方が後悔しないなと感じ、転職を決意したのだ。人生は何が起こるかわからない。後悔してからでは遅いではないか。

 今ではこんな体たらくだが、実は転職自体は後悔していない。それよりも自分の心体の管理や、もっと人と関わって良い人間関係を築けなかったことを悔やんでいる。狭い世界に閉じこもらずに、もっと広く見識を広げるべきではなかったのか?

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