第32話 仲間達

 今からみんなに会う。そう考えたら緊張してきた。新橋に近づくにつれて気分が悪くなり、堪らず大崎駅で降りてしまった。やはりまだ治っていない。早すぎたか? しかし今日を逃すとさらに会いづらくなるのではないか? 機会は逃してはならない。人はいつ、どうなるかわからないのだから。自分を奮い立たせて電車に乗った。

 SL広場前の居酒屋に入る。そこにいたのはYも含めて三人、一軒目で働いていた店でよくつるんで呑んでいた先輩と後輩だった。

「よく生きて帰ってきた!!! 」

 いきなりハグされて三人とも笑顔で迎えてくれた。

 謝罪をしてから事の経緯を説明する。全員ほろ酔い気分だったのでどれだけ伝わったのかはわからない。しかし私のためにこの場所に来て、気を使ってくれているのは言葉の端々から感じ取ることができた。

「もっと早く相談してくれれば......」

「それはわかってはいたけど、同じ業界の狭い世界だからどこで変な噂が立つかわからないだろう? みんな忙しいし迷惑をかけたくなかったんだ」

 大切な友人だからこそ話せないこともある。


 酒が進むに連れて大声で騒ぐようになった。久しぶりの独特な体育会系のノリ。私に鬱が襲い始めた。

「なんだ? 飲んでないじゃん、飲めよ! 」

「すいません。もう十分です」

 先輩のからみ酒が死ぬほど辛い。私の肩に手を回して強引に飲ませようとしてくる。励ましてくれようとしているのは伝わるが......

「お前、思ったより元気そうじゃん。もっとやつれてボロボロになってるかと思ったよ。このあとキャバクラ行こうぜ! 」

「すいません。病み上がりなもので......」

「平気そうじゃん。行こうぜ! 」

 健常者、鬱の経験や知識がない人にはこの病気の苦しさは伝わりにくい。残念ながら世間一般の見解ではこんなものなのだろう。


 結局二軒目は寿司屋に行くことになった。そこでかつての自分の上司と九年ぶりに再会した。今では結婚して四人の子供がいるらしい。

「大変だったみたいだね」

「はい。まあ。その......」

 あまり会話も弾まず上司は早々に裏に引っ込んでいった。こんな人まで私の失態を知っている。もうこっちでは就職は厳しいかもしれない。

 午前三時に解散。私は一人一人にハグしながら感謝の言葉を述べた。

「先輩は真面目で極端すぎる」

 後輩がぼやく。その通りだ。

「みんなも気をつけて。この病気は誰にでもかかるらしいから」

 悔しくなってそう返した。

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