第27話 医者②

 三日後、父親に付き添ってもらい近所の個人経営の心療内科に行く。第一印象は最悪だった。まず自己紹介しない。私と目も合わせずにパソコンの画面を見たままで

「予約の電話では入院したいとのことですが、ここには入院施設はありませんよ。大丈夫ですか? 」

 つまらなそうに言ってきた。ハズレだな。私は心の中で舌打ちをする。もう一人会話をタイピングしている能面のような女性も挨拶はない。第一候補だった心療内科は遠方にあり予約しても二ヶ月待ちだと言われていた。両親にこれ以上負担をかけるわけにはいかない。私は大きく深呼吸して心を落ち着かせた。

「構わないですよ。自己判断ですが、一番悪い時は脱したので入院はしなくてもいいです」

「そうですか」

 ようやくのっそりと身体を反転させ顔を合わせる。肥満気味で不健康そうなメガネをかけた五十代の医者だった。ワイドショーに出てくる某経済学者にそっくりだった。「それなら、診てやるか」表情がそう言っている気がした。

 自分のことを語るのは三回目なのでスラスラ話すことができた。何も言わないので以外と話しやすい。

「前の病院でも薬を処方してもらったのですが、今は安定しているので、もう少し弱い薬がいいです」

「それでは漢方薬にしましょう。他に何か聞きたいことはありますか? 」

「特にないです」

 診察は終わったが、医者は捨て台詞を残した。

「初診でしたので時間を取りましたが、次回から五分以内で終わってもらいますので」

 私も接客を仕事にして来たのでよく理解している。この医者では患者は安心することはできないだろう。この類の患者を見下した医者は田舎の病院では多数生息しているのだ。

「新宿に戻りたい」

 どんよりした灰色の空の下、足元にまとわりつく雪に顔をしかめ、車に乗り込む小さな父親の背中を見ながら嘆いた。

 




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