事後処理

第26話 家族と友人

 まずは謝罪して全てを打ち明ける。両親は取り乱すことはなく冷静に話を聞いてくれた。

 両親の話によると、私が一番最初に就職した同期社員Yが事情を聞きつけて、会社の事務所に連絡を取り自宅の番号を聞き出して、私の家族に連絡してくれた。事件が発覚してすぐに父親が上京して、従姉妹と一緒に私の住むマンションに出向いて部屋に侵入、置き手紙を置いた。

 警察に事情を説明して私の銀行口座の履歴閲覧を希望するが、事件性が確認できないこと、個人情報保護法により拒否されてしまう。マンションの監視カメラの映像記録も同様だった。成人の失踪の場合、本人の意思でいなくなることも多く警察は事件性の証拠がないと動けないのだ。

 私がバイトで働いていた店のスタッフも心配して定期的に部屋の様子を見に来てくれたらしい。

 母親は私が失踪してから毎日、朝昼晩に一回づつケータイをかけ続けていた。

「知らせを聞いてすごく動揺した。ただ生きていてくれと願っていた」

「とりあえず今日は休んで明日、病院に行こう」

 

「口ではうまく説明できない。当時の心境を日記にしてある」

 私は両親に日記を差し出しました。母親は読みましたが、父親は拒否しました。

 午前一時まで話し合った後、私はお風呂に入り久しぶりのベッドに潜り込みました。柔らかく腰が痛くなくて、感動したのをよく覚えてます。

 翌日Aさんに電話するときは手が震えました。不在だったのですが翌朝に折り返しの電話があり、私の母親が受けて事情を説明してくれました。これで会社のスタッフ全員に連絡が回るはずです。

「治ったらいつでも戻って来てください。待ってますよ」

 Aさんはそう言ったらしいですが、母親はその言葉が白々しく聞こえたらしく

「悪いけどあの人、好きになれないわ」

 詳しくは聞きませんでしたが、前のやり取りから何か感じていたらしいです。

 Aさんから見れば、長く辛い修行を乗り越えて、初めて自分の店を持つという夢を邪魔された疫病神でしかありません。万が一私が死んでいたらもっと状況は悪くなっていたでしょう。新しい門出には幸先悪すぎです。業界の噂は早いのです。

 心配してくれていた後輩にも電話します。この子は田舎に戻り就職していましたが、義理堅く自分の結婚式に沖縄に招待してくれました。私が一件目の店を辞めてから、沖縄一人旅行の時にわざわざ車を出して観光案内してくれたナイスガイです。ことの顛末と結婚式不参加を詫びました。

「いいですよ。いいですよ。本当に無事でよかった。元気になったらまた沖縄に遊びに来てください」

 ありがたい言葉だった。

 母親との連絡先の窓口を担当してくれたYにも電話します。こいつは唯一、仕事でもプライベートでも仲が良かった親友です。

「色々迷惑かけて、ごめんな......」

「馬鹿野郎! 本当に心配したんだぞ! 」

 話すことはたくさんあるはずですが、電話では全部伝えきれなくてもどかしいです。

「近いうちに東京に行くから」

「ああ。わかった。必ず来いよ」

 自分を心配してくれる遠い地にいる友人たち。本当に馬鹿なことをしました。

「はぁ〜〜〜〜」

 電話を切った後、長いため息をついた。

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