第25話 二〇一六年一月十二日

 医者に紹介された病院をネットカフェで調べる。どの病院でも共通しているのが保証人だった。親に連絡を取るしかないらしい。

 行動するまで一週間葛藤した。どうにかして一人で入院する方法はないのか? また馬鹿な考えをしている。一月十二日、新宿駅東口の公衆電話ボックスに入った。

「もしもし」

「もしもし......」

「どちら様ですか? 」

「あの、父さん。俺だけど」

「おお,おーおー! 」

「あのさ、俺どうも心が......」

 突然電話が切れた。そういえば小銭を三十円しか入れていない。どうかしている。


 なぜか新宿駅西口まで移動してから、自動販売機でホットレモンを買って小銭を作った。三百円玉を入れてもう一度かける。ワンコールで出た。

「おい! もしもし! 」

「俺だけど、今俺がどう言う状況かわかる? 」

「わからんが、十月初めに東京に行って大体のことは聞いているから。お前ケータイはどうした? 」

「捨てた」

「そうか。家出人の届けも出したんだぞ」

「母さんにも心配かけてすまないと言って欲しい」

「おまえどこにいるの? 」

「新宿」

「そうか。とにかく一度帰ってこい」

「物事がよく考えられない状態で......入院したくて......でも保証人が必要で......」

「とにかく一度帰ってこい。金はあるのか? 」

「大丈夫」

「そうか。とにかく帰ってこい」

「ああ。そうだね」

 電話が切れた。ちょうど三百円分使ったらしい。


 私は今、田舎へ向かう電車に乗って、ずっと流れる景色を眺めている。

 ふと病院で書いてもらった紹介状が気になり「開封厳禁」と割印がされていた白い封筒を破った。

「重度の鬱病と疑われます。自殺願望があり大変危険な状態です。本人の希望もあり入院を勧めます」

 だいたいそんなことが書かれていた。大切に元に戻す。そういえば医者に病名を告げられたのは初めてだ。はらにストンと落ちた気がして安心していた。妙な感じだった。

 田舎の家に着き、外観をじっくり眺めてからインターホンを押した。

「あら、おかえり〜」

 両親は笑顔で普通に接してくれた。私は膝の力が抜けてその場にうずくまっていた。

「本当に、ごめん......」

 三ヶ月半ぶりの生還だった。

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