第24話 クリニック
待合室には老若男女、大勢の患者がいた。「みんな病んでるなぁ。自分だけじゃないんだ」不謹慎だがそう思いました。受付を済ませ清潔で広い待合室で待っていると、職員にバインダーに挟まれたA4用紙と鉛筆を渡されました。
「ここに木を描いてください」
バウムテストです。当時は恥ずかしながらそのテストの名前がわかりませんでした。「素直に描こう」と考え白紙の中心に三センチほどの小さな木を描きました。回収された後しばらくして先生に私は呼ばれました。今度は三十代後半のメガネをかけた健康そうな医者でした。
「不眠症という事ですが、今日はどうされました? 」
「何から話せばいいのか......」
沈黙の後、私は覚悟を決めました。
「自殺未遂をしました」
医者は顔色を変えることもなく、頷いて続きを促します。私はそこから堰を切ったかのように話し続けました。医者は所々不明瞭な点について質問し、確認を取りながら
「うんうん」
「ほう」
などの相槌を打つだけで、決めつけたり否定しないので話しやすい。一通り話し終えてから
「今でもそういった事(自殺)は考えていますか? 」
「毎日考えています。だから入院したいので紹介状を書いて欲しい」
「今は眠れていますね? 」
「はい、でも出来るだけ薬に頼りたくないのですが......」
「わかりました。一週間分の心を落ち着けるお薬を出しときますね」
現在現役失踪中の事も話したが、特に警察や家族に連絡を取られる事もなかった。実に拍子抜けだった。三ヶ月半ぶりに生の人間と面と向かって二十分以上会話した。
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