第23話 二〇一六年一月四日

 年が明けてしまった。羽生結弦が世界最高得点を更新して輝いていた頃、私は相変わらず暗闇の中にいた。明日こそは、明日こそは、何か行動を起こさなければとは思う。体の倦怠感は相変わらずだった。言い訳はもう充分、行動するしかない。

 新宿駅西口のメンタルクリニックに公衆電話から連絡をする。翌日の午後に予約する事ができた。三ヶ月ぶりに人と三分以上会話する事ができた。声はかすれて我ながら要領を得ない話し方だったが、対応してくれた女性は辛抱強く聞いてくれた。慣れているのだろう。そのまま実際に病院の場所を確認してから近くの床屋でボサボサの髪の毛を切った。

 気が大きくなった私は居酒屋に入った。カウンターに座り、生ビールと串焼き盛り合わせときゅうりの漬物を注文する。厨房の店員がきゅうりを安っぽい皿に盛り付け、鬼のようにグルタミン酸をふりかけるのをぼんやりと眺める。テレビでは全国高校サッカー選手権大会のニュースが流れて客はそれを見上げていた。高校生たちのキラキラ輝く目が妬ましく、目をそらして水っぽいきゅうりに辛子をつけて口に運ぶ。五時頃になると店は混み始めて喧騒に包まれる。

 私はゆっくりとビールを飲みながら自分を観察していた。「他人のそばにいても怖くない。俺は大丈夫だ」確信した。さっさと店を出てネットカフェに戻り、シャワーを浴びて眠りについた。

「大きな一歩だ」

 なかなか興奮して寝付けなかった。

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