第15話 転職②

 三軒目の店はまだ一年しか営業していない若い店でしたが、連日満員御礼の人気店でした。私が働く直前にその店の若い衆が逃げてしまったらしく、私は一番下の身分の「追い回しおいまわし」からスタートでした。仕込み、掃除、整理整頓、ゴミ出し、電話番と率先してやっていました。待遇についてはとやかく言えません。Aさんの店が完成するまで、ここではある程度のノウハウを盗んで仮に働くだけのアルバイトです。

 ただこの店から私の家までは電車で三十分かかるので終電の時間を気にしなくてはなりませんでした。しかし片付けを先輩達に任せて帰る罪悪感と通勤手当がないのが馬鹿らしくなり、Aさんの店との中間地点で自転車で通える物件に引っ越す決意をしました。この店も毎週月曜日が定休日だったので、区役所の手続きや引っ越しの手配で最初の一ヶ月は休みがないようなものでした。店はホールも厨房も慢性的な人手不足状態で、ストレス発散することもなく毎日しんどい日々が続きます。

 「船に乗ってくれないか? 」

 一ヶ月後、引っ越しも完了しスタッフとも打ち解けた頃に、親方から思いがけないオファーを受けます。他の姉妹店で乗船する予定だった人間が交通事故で怪我をしてしまい、なぜか私に白羽の矢が立ったのです。全国クルーズの豪華客船で寿司職人として働く契約で期間は二ヶ月間でした。しかも二日後に乗船。

「無茶だ。でも......」

 今思えば経験不足や体調不良を理由に断るべきでした。

 転職活動、慣れない職場、引っ越し、船。

 私はこれも人生の試練なのかもしれないと勇ましく

「いいですよ」

 即答しました。

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