第11話 思い出⑥

 Tはそれから出勤するたびに缶コーヒーを買ってきて

「これは利子だ。お金は必ず返すから。それまでは絶対に買い続けるよ」

「そんなことしなくていいですよ! 」

 私が催促しにくいように要所でこういうゴマスリをしてきます。実際最後まで買ってきました。仕事もまあまあできて、話もとても面白く特に年配のお客の受けがいいのです。


 Tの情報(自称)

 五十五歳、バツ三、二十代の娘が一人、仙台育英高校の元ボグシング部、高校中退、趣味が渋谷の日焼けサロン通い、和食と寿司職人の経験あり、将来の夢は四度目の結婚、若い彼女がいる、ルームメイトは元プロボクサーを引退して寿司職人をしていた男


 性格は明るく、波乱万丈な人生経験からか、打てば響くような老練な会話をしてきます。正直、勉強になりました。一ヶ月後またTから借金の申し込みがありました。すっかり仲良くなって気を許していた私はさらに三万円貸しました。

 それからしばらくしてまたTに小声で呼び出され、追加の借金の申し込みがありましたが、断りました。十万円。これがリミットだと決めていたからです。Tは食い下がります。しかし私の意志が強いと判断したのか逆ギレしてきました。

「お前、俺の友人を殺す気か? 非道い奴だな」

 支離滅裂でした。私は断固として断り、なぜか罪悪感が残りました。

 そこからTの仕事に対する態度が変わってきます。仕事のミスも目立ち、大将にも怒られるようになりました。また退社する一時間前になると。目に見えてソワソワするようになり、完全に呆けてOFFになります。化けの皮が剥がれてきました。

 私がお金の催促をしても、のらりくらりと得意の話術で躱していきます。なだめたり、すかしたり大したものです。時間に比例して私のストレスは溜まるばかりでした。なぜ貸した側が苦しむのか? 理不尽でたまりません。

 そして問題が発生します。Tはうちの店で働くアルバイトの男性にも借金の申し込みをしたのです。

「突然電話してごめん。今〇〇病院の前いるんだけど。俺の友人が入院してて、入院代で少し貸してくれないかな? 数千円でもいいんだ」

 バイト君の話では相当しつこかったとの事でした。無理だと断ると

「じゃあ今から飯食いに行かない? 俺の知り合いでBAR経営してるやつがいてさ。おごるから。遊ぼうよ」

 怪しすぎです。もちろん丁重に断ったそうです。私は大将にTの借金を打ち明けました。






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