第9話 思い出④

 一日のスケジュール

 AM8:00 出勤、掃除

 AM9:00 仕込み

 AM11:30〜PM2:00 ランチ営業

 PM2:00〜5:30 片付け、食事、仕込みの続き、時間が余れば伝票整理、電話番、ディナー営業の準備、余った時間が休憩時間

 PM5:30〜10:30 ディナー営業

 PM10:30〜 片付け、帰宅、もしくは時間があれば伝票整理

 毎週月曜休み


 大体こんな感じですが仕込みの多い日は休憩がなかったり、店が忙しい時は日をまたいで帰宅する事も多いです。店から歩いて十分ぐらいの場所に引っ越したので、終電を気にしなくていいので楽になりましたがきつかったです。特に和食の担当が全部私になったのは参りました。甘味かんみなんて作った事ありません。和食の人間がいなくなったのでメニューから外れると思いましたが、なぜか継続してました。

 そして伝票整理。地味で厄介な仕事です。もちろん営業優先なので最初のうちは何日も溜まっていきました。仕方がないので日曜日の夜にやったり、疲れているときは月曜に店に出て処理していました。休憩時間中は荷物が届いたり、仕込みがあったり、電話が鳴ったりで集中できません。そして決まって寝てしまいます。飲食店で数字見てると眠たくなりませんか?


 大将は一度、築地に行く時に高速道路で事故を起こしたことがあります。大した事故ではありませんでしたが、そのおかげでランチ営業ができなくて大変な事態になりました。築地の業者側に頼んで魚をピックアップして運んできてもらう手配や、予約のお客様へのキャンセルお願いの電話、魚が来ないと何も始まりません。往復三時間かかるのでどうしようもありません。四人体制の時には一緒に仕入れに行けましたが、大将は朝六時に車で出発して帰ってきます。二人では万が一の時、対処ができないので私が店に残っていました。正直一緒に行きたかったです。

 アルバイトの方もアテにできませんでした。午前中のみ、夜は早く帰りたいなどフルタイムで入れる人はなかなかいません。時にはホール、裏、板前と三役をこなしました。大将も私もいっぱいいっぱいでしたが力を合わせて、歯を食いしばって耐えていました。


 ある日、大将が寝坊してしまい仕込みが大幅に遅れた事がありました。ランチにはなんとか間に合わせましたが、その後は二人で仕込みの続きです。寿司の仕込みは何とか終わりました。

「もういいね」

 大将はレジの金合わせと銀行の入金に行きます。和食の仕込みはまだ終わっていません。ガス台の火を使う時間のかかる仕込みばかり残っています。しかし大将は我関せずといった感じで、自分の仕事が終わったら、テーブルで新聞を読み始めました。

「おーい。キリのいいところで飯にしようぜ」

 渋々、私は賄いの準備を始めました。ご飯の後大将は椅子をつなぎ合わせて、簡易ベッドを作りいびきをかいて眠り始めました。私はその不快な轟音を聞きながら仕込みを続けていました。

「何であの人、手伝わないで寝てるの? 」

 アルバイトのお姉さんが憮然としています。僕は無言で首を振りました。仕込みの区切りがついた後、能天気にトドのように寝ている顔を見てストレスが頂点に達しました。走って店の裏側に回り、地下に通じる下水の穴の中に首を突っ込んで叫びました。

「ふざけんな! お前の遅刻のせいだろうが! ちょっとは気を使う振りだけでもしろよ! おらーーーーーーーーっ! 」

 二人体制になって最初の頃はしてくれた事も、全く手伝わなくなりました。

「俺はいずれこの店を買い取って独立する。それまでの辛抱だ」

 その割には大将は調理師免許を持っていませんし、経理もやりません。その勉強もしません。やるのは仕入れと銀行の入金とカウンターに立つ事です。またそのお金の計算も恐ろしく遅いのです。ちんたらやっているようにしか見えず、それがまたストレスになります。1年近く経ってもスピードが上がっていません。お金が合わないと大変です、何度も何度も手で数えて計算し直しています。一度、計算がどうしても合わなくて疑われたことがありました。結局、彼の単純な計算ミスでしたが謝罪はありませんでした。

 私は大将に対して不信感を抱くようになります。

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