第7話 思い出②

 ある日のランチの終わり間際、閑古鳥を見かねたオーナーが、店の偵察も兼ねてビジネスの友人を連れて突然来店しました。お酒を交わしながら、にこやかに会食は行われていきます。その日はそこそこ忙しくお土産の注文も入りました。

「俺たちは勝手にやるから、テイクアウトに集中していいよ」

 オーナーが言います。取りに来る時間も結構早く、忙しくなってきました。

 Mさんが包装準備、大将がネタを切りつけてからの握り、私が裏の厨房で車海老くるまえびのボイルや穴子を焼き、巻物を作ります。笹をしいて握りと巻物が直接箱折はこおりに触れないようにしなければなりません。その後は包装してお箸と人数分のお醤油と紙袋を用意し、伝票も書かなくてはなりません。

 包装準備は早く終わります。しかしMさんはそれしか出来ない。寿司に対する興味もやる気もないのです。このクソ忙しい時間に何をしているのか、裏に引きこもっています。大将が明らかにイライラしています。私は焦りました。笹を箱折に敷くのに慣れていないのもあり手間取っていました。大将が握り終わり、箱折の中に寿司を詰めていく作業を手伝います。何とか全部詰め終えました。

「......もうダメだ」

 そう言い残し大将は裏の厨房に向かいました。

「お前、何しとんだ?  」

「あ? 」

 大声で激しい言い争いが始まりました。

「ふざけんじゃねぇぞ。この野郎! 」

「何なんすか!? 」

「マジか......」

 私は嘆きました。まだ包装は残っています。時間も迫っています。裏には行けません。カウンターを見ると二人のぽかんとした顔が見えました。私は目を合わせられません。手をひたすら早く動かします。ヒートアップした声が聞こえてきます。

「だから手伝えばいいんだよ! 」

「やり方がわからない」

「わからないだぁ? いい歳して何言ってやがんだ。そんなんだから和食店の頭、降ろされんだろうが!」

「今、それは関係ねぇだろう!  」

 途中から何を言っているのか聞き取れませんでした。その後オーナーが仲裁に入り、何とか止まりました。

 その日の営業後、Mさんは正式に大将に辞める事を伝えました。


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