第4話 医者

 投薬自殺を試みる二週間前、この頃は仕事でどんなに疲れて帰ってきても、午前六時まで寝付けず、二時間睡眠か徹夜が週三日という有様でした。その前から病院に行こうとしていましたが、休日には憂鬱と体の倦怠感からベッドからどうしても起き上がれません。出勤した時は会社のスタッフが私の異常に気づき心配してくれますが、私はなぜか強がって

「大丈夫。大丈夫」

 と言い続けていました。自分でもよく分からず「弱音を吐いてはいけない。会社には行かなくてはならない」と毎日それだけ考えていました。

 しかし苦しすぎて、「とにかく楽になりたい。死ねば楽になるかな? 」と考え始めてさすがにまずいと思い、気力を振り絞って近所の心療内科に行くことができました。


 はっきり言います。精神科、心療内科に行く事に激しい抵抗を感じていました。

「あんたはおかしい」

 医者に明言されるのが怖くて踏み出しきれませんでした。自分の今後の人生が大きく変わってしまう気がして、病室に入ってもとにかく落ち着きません。自分の名前が呼ばれて診察が始まりました。

「どうされましたか? 」

「眠れなくて」

「それはいつから? 」

「一ヶ月前からです」

「何か原因の心当たりはありますか?」

「仕事のストレスかと」

「お仕事は何を? 」

「飲食店で働いています」

「その他に症状はありますか? 」

「毎日楽しくないです」

「それは脳の伝達物質が足りていないんですね。セロトニンという物質をご存知ですか? 」

 メガネをかけた不健康そうな三十代後半であろう医者は、フリップを出して紙芝居のように脳内メカニズムの説明を始めた。私はこう思いました。「違う。そんなことはどうでもいい。俺は自分の話をよく聞いて貰いたいだけなんだ」と。

「今一番辛いことはなんですか? 」

「今のこの時間です」思わず言いそうになったが心は折れていて、自暴自棄になりどうでもよくなっていました。

「眠れないことです」

「それでは睡眠導入剤のお薬を二週間分出します。まずは睡眠をとってから様子を見ましょうか? 」

 一刻でも早くこの空間から出たかった。

「そうですね」

「それではお大事に」

 時間にして十分間。あっさり終わってしまった。いや、。原因を探られるわけでもなく、病名を告げられる事もなく、流れるような問診。私は怒りも湧かず失望してました。この医者ではダメだ。さらに憂鬱になりました。

 冷静に考えればもっと詳細に自分の症状、不安を伝えるべきでしたが、すでに正常に物事を考えられなくなってた私は、うなだれて処方された睡眠薬をただ眺めていました。

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