出会いのかくし味ははちみつで

@yuuuuknn

第1話 バッドタイミングなはじまり



「ごめんね、・・今まで、ありがとう・・っと」


スマホの画面を親指でスライドさせ、思わず口に出しながら文章を打ち込んだ。

なんてありきたりな別れの言葉。

私はこれを半年以上交際した恋人に伝えた。


・・・・チャットアプリで。


「ハァァァ~~~、またかぁ」


大仰にうなだれて吐いた溜息は白く色づいて消えていく。

心も寒ければ外気も寒い。

なんて言ったって今は12月。さらに付け足せば24日、そう、クリスマスイヴである。

よりにもよって、こんな幸せに満ち満ちた日に私は恋人と破局してしまったのだ。



私、桐原みづきは古着屋に勤めるアパレル店員(22)。

今までの恋愛歴は彼氏がいない時期が少ないと言われるほど充実はしていた。

しかし、結末はみな電話かメール、はてはSNSでのさようならである。

そんな空虚な恋愛をまさか22歳まで続けているなんて、・・・学生時代の自分は思いもしなかっただろう。


いつもならまぁ次の出会いに期待しよう、とこんな別れ方をする分気持ちなんて薄れているもんで、割とあっさり気持ちを入れ替えてしまうのだが。

時期が・・・悪かった。

寒さで鼻先を赤くする私の周囲は、色鮮やかに装飾されたツリーや白く輝く照明、笑顔あふれる家族と気恥ずかしさのあるカップルであふれかえっている。

全身を締め付けられるような感覚に陥って思わずうめき声を出してしまいそうだ。


ぐぅぅぅ・・・・


と、その前に腹の虫が鳴った。


「クリスマスケーキいかがですかぁ~!」

「タンドリーチキンとセットで3000円ですよ~!!」


コンビニの前でクリスマスのコスプレをした店員がたたき売りをしている。

いけない、このまま目の前を通ってしまえば「そこのお姉さんお一人ですか~!!」などと無神経に精神を崩されかねない。


そんな視線という視線を集める精神攻撃は絶対に勘弁だ!!

私はつまさきに力を思い切り入れてUターンした。


みじめだみじめだと唇をかみしめて勇ましく大股で歩いた。

しかし数メートル進んだところで、行く当てなどないので立ち止まった。

正直、今の心境は家に帰りたいような帰りたくないような。

でも、家に帰らなければこのクリスマスの幸せムードという地獄から抜け出すことは、不可能なのはわかっている。

わかってはいるのだ・・


鼻から息を吸って腹にためたのち大きく口から空気を吐き出す。

また、白く宙へと漂い消えていくのをまじまじと見つめ、私は決心した。


「・・・・呑もう」


最終兵器、アルコール。

考えることにこれ以上エネルギーを使ってしまったら空腹が限界に達する。

大好きなから揚げとビール。

辛いときはもうこれを摂取するしかない。


そうと決まればもう行く先は居酒屋だ。

それも最近のこじゃれたカフェアンドバーチックな居酒屋などでなく、中年たちの集まるような大衆居酒屋。

クリスマスイヴの夜に、そんな店で飲んだくれる女など私含め少数だろうが、もはやそんな小さなプライドはどうでもいい。

今はこのたまりまくったストレスを発散したい。


から揚げのうまい店といえば・・・・


「あ、」


そういえばこの間常連の蛇さんが、からあげのおいしい居酒屋の話をしていた。

なんでも「Flog」(――私の勤める古着屋)の近くに新しくオープンした店らしい。

外装と内装の違いにびっくりするから行ってみて、とゴリ押しされていたのだが、

恋愛事がごたごたしていてすっかり忘れていた。


「行くしかないですねぇ」


よし、と肩にかけていたトートバッグをかけ直し、立ち止まっていた足を動かした。

噂の居酒屋へ向かおうじゃないか。

今度はさっきまでとは違うはっきりとした足取りで。


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