2 ハードモードの中身
ふと目が覚めて、布団の中から這い出た。カーテンを開けて、今がもう朝だということに気がついた。
今日も世界は正しく回っていた。つまり、僕は大学に行かなければならないということ。
まぁ、行くも行かないも僕の自由なのだけれど、学費を出してくれている両親にも申し訳ないし……とか優等生はそういうように言うのだろうけれど、あいにく、僕は優等生ではないし、むしろ劣等生とでも言うべきだろう。
そんなわけで大学に行く気はさらさら無かった。
そもそも大学に行くという行為の意味や重要さがわからないし、特別行きたかった大学でもないのだから仕方の無いことだろうと思っている。優等生は僕のような人間をきっと「自分に甘い奴」とか「理由をつけて何もしない奴」とかそういうレッテルを貼って嘲笑するのだろうけれど、そんなのは勝手にやっていてくれという感じ。僕には僕の考えがあるし、それで後悔するのも幸せになるのも基本的には僕しかいないからそんなのは僕の勝手だ。
四ヶ月ほど前から大学生になった。浪人はしなかった。浪人したら、勉強に対する思いは皆無だからどうせ勉強しないし、ましてや浪人してまで行きたい大学があった訳でもなかった。だから、適当に、社会的に「まぁ、悪くないんじゃない?(あまりよく知らないけど、名前だけは聞いたことがあるな)」と評価されるような三流大学へ、ありとあらゆる噂がつきまとう推薦入試という形で入学した。
よく推薦入試は就職できないだとか留年するだとか言われてるけど、そんなことは知ったこっちゃなかった。とにかく自分は大学に進学するということも進学せずに就職するということも、すべてどうでもよかった。
大学に行ったところで自分の性格が変わらない限り、きっと毎日退屈な思いや怠惰な生活をするだけだということがはっきりとわかっていた。
ここでもう一度、僕の今までをふと振り返った。
最初の歩みは順調だったと思う。いや、もしかしたらそこからもう間違っていたのかもしれない。いつから俺はこうなってしまったのか。
まず、僕はおぎゃあと声を上げて生まれ(実際のところどうだったかは知らない)、そこからいわゆる中流家庭の環境下ですくすくと育ち、無事に小学校に入学。そして、いじめっ子にもならず、いじめられっ子にもなることはなく、平凡な子として中学校に入学する。
中学入学後は球技は苦手だということから陸上部に入部し、特に実績もないまま日々を過ごした。ほかの部活動は中学三年の夏に最後の大会が終わり次第引退するが、僕ら陸上部員は陸上部を担当する教員の横暴により、中学三年の秋にある大会まで引退することは許されなかった。そして、その日々を一生懸命に過ごし、秋に大会が終わると受験勉強に専念するという理由で部活動を引退し、勉強漬けの日々を過ごし、高校は県内有数の進学校に進学。ちなみに、そんな日々を過ごしたのは、自由を手に入れるためだった。進学校の方がある程度校則が緩いのは周知の事実である。
高校に入学して、自由を手にしたのはいいものの自由の使い方がわかっていなかった。自由を謳歌しようともがいたが、両手は虚空を掻いていた。
そうこうしているうちにあっと言う間に高校三年がやってきてしまって、ほとんどと言っていいほど勉強してなかった俺は推薦入試という名の大学運営のための金づる集めに参加し、現役で三流大学に合格した。
そして、現在に至る。以上、回想終了。
というわけで僕は高校卒業寸前までは平凡な人間だったのにもかかわらず、その後はもうどうしようもない一流のクズなのだった。なにをもって一流とするかはその人の主観的な部分に依存するだろうけれども。クズだとしても、大学生なだけまだマシかもしれないけれど。
自分を周りのみんなと同等、あるいはそれよりも格上の人間だと思い込んでいた僕はいつの間にかみんなよりも格下の存在になっていた。残念ながら、それに気がついたのは大学に合格して入学してからだった。もう手遅れだった。
過去をどれだけ振り返っても、僕が今いる位置は現在だし、これから進む道は未来なのだから何の意味も無い。それでも、振り返ってしまう僕はきっと弱い。
自分は弱いということを僕は知っている。だから、僕は自分を強く見せたがる。でも、本来の僕はそんな奴じゃないと、自分では心の深層では気づいていて、そうして、自分で自分の心を締め上げるのだ。
「ああ」
情けない声が、思わず出た。どうしようもないと心では思いながら、すべてをあきらめている今の僕の中身だった。
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