第10話
「俺とニトがパーティーを?」
「そう、パーティーだ」
聞き返す俺の言葉に、ニトは頷く。
「パーティーを組む事については、強いて言えば互いにメリットがある」
「と言うと?」
「まず、君のメリットだが私が作成したアイテムの試運転を君に頼み、気に入った物をそのまま譲ろう。言ってしまえば、市販品以外の武器をほぼ無償で手に入れる事が出来ると言う訳だ」
「え?」
「更に、パーティーの教養財産とも言えるHPやEPを回復するアイテム。それを私の方で取り揃えよう。何せ、私は一般販売されているものよりも安価で作り出せるのでな」
おいおい、それってかなり俺が得してないか?
だって、装備を揃えたり消耗品を確保するのって結構金が掛かる。
それをニトが全てを揃えるとなると、個人的な負担がかなり大きくなってしまう。
「確かにそれは俺にとってのメリットだけど、ニトが損していないか?」
「いやいや、そんな事はない。続いては私のメリットだが、まず、パーティーを組む事で共に機械獣を倒す事が出来る。一人よりも二人なら倒せる数や相手が格段と増えるからな。私一人では倒し切れない相手でも君と一緒なら倒せるだろう。更に、それによってアイテムなども多く手に入る事になる。そうすると、アイテム作成の素材も必然と入手しやすくなるのだ」
確かに、ニトの方にもメリットはある。
けど、それだけだとまだニトの方に負担が傾いているな。
正直、倒せる機械獣の種類や数が増えるだけじゃ、俺の方に提示されたメリットとは釣り合わない。
と、俺が不安に思っているとニトは更に言葉を続ける。
「その際、アイテム作成の素材とあるものを私に譲って欲しいのだ。無論、金銭に関しては倒した者の物と言う事にするが」
成程、素材アイテムを全てニトへと譲渡する事によって、ニトが作成するアイテムの数も種類も増えると言う訳か。
俺としても素材アイテムを使って作成なんてしないし、手に入れても店に売るくらいの事しかないから別にいい。
……別にいいんだけどさ。
「して、この条件でパーティーを組んでくれるだろうか?」
「いや、まぁ。俺個人としても損はしていないんだけどさ。流石に素材譲渡だけだとやっぱり俺の方がメリット多いと思うぞ? 最低でも消耗品を揃えたりアイテム作成する際に必要な出費位は俺に負担させてくれよ」
「む? そうか?」
「そうだよ」
何故かニトは自分の負担が減るのに腕を組んで首を捻る。
「俺なんか変な事言ったか?」
「いや、言ってはいないが……。しかし、私と君は今日初対面だ。それなのに突然パーティーを組もうなどと提案したのだから、いくらか私の負担を大きくした方がいいと思ったのだが」
「いやいやいやいや」
ニトはあまりに下手に出過ぎではないだろうか。
謙虚過ぎるとでも言えばいいのか、相手の事を気にし過ぎとでも言えばいいのか。
正直言って、こんなんじゃこの先一杯苦労するし、悪い奴に騙される可能性もある。
あと、ここは現実世界じゃないんだから、もう少し気楽に行ってもいいだろうに。
「あのな、少なくとも俺は特に気にしないからな。オンラインゲームやってればいきなりチャットが飛んで来てパーティー組みませんかって誘われたりもするし、そう言った流れでパーティーを実際に気軽な感じで組んだりもする。で、相性が悪ければ解散、よければそのままパーティー結成って感じだから。大体のゲームは」
「そうなのか?」
「そうだよ。だから、そうやって相手にだけ気を遣うなよ。下手にそうやってパーティー組めばパーティーとしての負担が提案した者にのしかかって来るんだから」
「そうか……」
まぁ、今し方俺が言った事が全てじゃないんだけどな。
ゲームによってはきちんとした手順を組んでパーティーを組む必要があったりもするし、パーティー内での役割分担も勿論必要になる。
「で、俺としては折角ゲームを遊ぶんだから、パーティー組んでる奴とも楽しみたいんだよ。だからそう言った契約とかメリット提示とか言った堅苦しいのは無しでパーティー組もうぜ?」
「え?」
「いや、え? って。俺はパーティーを組むの拒んだ覚えはないんだけど」
何故そこまで驚かれるのだろう? 謎だ。
「で、俺とパーティー組む? それとも考え直して組まない?」
「え、あっと……組む。組もう、パーティー」
少し挙動不審になりながらも、ニトは頷く。
「そうかそうか。それはよかった。では、早速パーティーを組もうではないか。ついでにフレンド登録もしちまうか」
「う、うむ」
そう言って俺達はパーティーを組み、フレンド登録も済ませる。
パーティーを組む事により、回復アイテムをパーティーを組んでいるプレイヤーに直接使用する事が出来る。更に、非戦闘時ならばアイテムの譲渡も特に面倒な手続きをせずにスムーズに渡す事も可能だ。
そして、フレンド登録を済ませれば簡単にチャットを飛ばせる事が出来るので、個別行動時や待ち合わせの際に重宝する。
また、フレンド限定で相手の顔映像をヴァイザーにスクリーン投影しての会話が可能となっているらしい。流石はVRゲームと言った所か。
「で、パーティーを組んだけどこの後はどうする?」
「あ……取り敢えず、『NITO’S SHOP』は午前、午後で営業時間を設けてるから、まだ私は店にいないといけない」
「そうか。じゃあ、俺も店の手伝いをするか、それとも商品確保の為に機械獣でも狩ってくるかな。ニトとしてはどっちのがありがたいんだ」
「私としては……そうだな、今日オープンしたばっかりだからまだお客は少ないだろう。なので、素材を集めて来てもらうとありがたいが……頼めるか?」
「勿論。んじゃ、俺は機械獣を狩って来るって事で」
トレーニング空間から出た俺はニトから貸して貰っていたスローイングボムとBバスターを返却しようとするが、ニトはそれをやんわりと拒否する。
「あ、それは持って行ってくれ。高威力の武器があった方が何かと便利だろう。【チャージバスター】を使用しない限りは破損しない。あと、弾となるボムもいくつか持って行くと言い」
「お、どうも。じゃあ行ってくるわ」
「うむ」
俺はBバスターを改めて装備し直し、機械獣狩りへと向かう。
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