第8話
商品棚に置かれたバスター。形状は初期型の物と違って腕に嵌めて完全に手を隠すタイプだ。人の腕よりも二回りほど大きい。拳の位置に銃口があり、口径は野球ボールほどだ。
「で、このバスターはどういった性能なんだ?」
「ふっふっふ、そうだな、これに関しては実演してみせた方がいいだろう」
ついて来たまえ、とニトは商品棚に置いていたバスターを手に取ると、奥の部屋へと向かう。言われるがままに、俺も後に続く。
バックヤードだと思っていたそこは、工房とでも呼ぶに相応しい場所だった。
作業台に溶鉱炉、金槌とか工具類が何種類もある。
ここで装備品やアイテムを作成しているのか。
でも、ここで実演していいのか? いや、どうせ破壊はされないから室内が荒れる心配はないだろうけど。
「さて、ではこのバスター……名をBバスターと言う。このバスターはEPを消費してエネルギー弾を放つ事は出来ない。が、代わりにボムを装填して発射出来るのだ」
「ボムを?」
「そう。装填されたボムは起爆方法が変化する。スローイングボムやパラライズボムはスイッチを押して五秒後に起爆するが、このBバスターで発射すると着弾時に爆発するようになるのだ」
「成程」
「では、試してみよう」
ニトは一度Bバスターを光に変えてしまうと、メニューを開いてそれを装備する。
その後、工房の一角にある少し大きい投影機みたいな機械へと近付き、何やら操作をする。
すると、部屋の景色が一変する。
工房然としていたものが一瞬にして砂漠へと変貌した。
ただし、周りを鉄の壁に囲われていて外に出る事は不可能。俺とニトから遠く離れた所に鉄屑で出来た案山子がぽつねんと立っている。
あと、何故か俺とニトはリンクドスーツに着替えている。
「ここは言わばトレーニングルームとでも言えばいいか。この機械を操作する事によって、好きな条件下で装備の試し撃ちが出来る空間へと移動する事が出来る。また、この空間内ではアイテムは消費されず、EPも自動で回復する」
「へぇ、何か便利だなそれ」
「あっはっはっは、そうだな。だがまぁ、レンタル費用が高いが難点だな……」
「レンタルなんだ、それ」
「あぁ。レンタル期限は三日だが、三日で10万ネミーもするのだ」
「高っ!」
よくそこまで高額な物をレンタルしたな⁉
と言うか、僅か一日で少なくとも10万以上は稼いだって事だよねそれって?
「よく借りれたなぁ」
「まぁ、十回払いのローンを組んで借りたのだがな。無利子でβテスト期間内に返せればいいそうだ」
「あ、ローンって組めたんだ」
「あぁ。ただ、こういった高額レンタルアイテムのみに対してだけだがな」
「成程」
「で、私は新装備やアイテムを作った際のテストに持って来いだから借りた訳だ。と言う訳で、早速試してみよう。まず、普通にスローイングボムを使うとだな」
ニトは彼女が着ているリンクドスーツに供えられたホルダーからスローイングボムを取り出すと、スイッチを押して起動させる。
そして、それを置くにいる鉄屑の案山子目掛けて放り投げる。
って、ちょっと待て!
「ん?」
案山子目掛けて投げようとしたスローイングボムは、無慈悲にも彼女の真後ろにぽすっと落ちたではないか。
「だから何で投げたのに後ろに落ちるんだよ!」
また爆発の被害に遭ってたまるか、と俺は急いでボムを拾って案山子へと投げる。ボムは放物線を描いて案山子の足元に落ち、ぼかんと爆発する。
「あっはっはっは、いやいや済まない。やはり私は遠投は苦手なようだ」
「いや、それってもう苦手ってレベルじゃないからな」
多分、ニトはソフトボール投げの記録でマイナスの値を叩き出してるんじゃないか? いや、流石にマイナス値は有り得ない……か?
「取り敢えず、次からは放すタイミングをもう少し遅らせたらどう? そうすれば、少なくとも前に放られると思うから」
「おぉ、そうか。助言感謝する」
ニトは綺麗な角度で頭を下げる。助言って言う程のものでもない気がするけど、まぁ、いいか。
「さて、今見て貰った通り普通にやるとあのように爆発する。続いて、このBバスターを用いてボムを発射してみせよう」
そう言って、ニトはホルダーからスローイングボムを一つ取り出すと、Bバスターへと装填する。
装填し終えたバスターの銃口を鉄屑の案山子へと向け、ボムを発射する。
直線を描き、ボムは案山子の胸に命中し、そのまま爆発する。
「おぉ」
「と、このようにボムが発射される訳だ。これなら事前に装填しておけば取り出して投げると言う工程を経ずに即使用する事が出来る。それに大部分の人間に言えるが、投げるよりも正確に機械獣へと当てる事が出来る」
ニトは胸を張り、Bバスターを天に掲げる。
「因みに、このBバスターは私の完全オリジナル装備であり、NPCの店では全く売られていない。他のプレイヤーも作ったという報告もない。つまり、現状では『NITO’S SHOP』でしか買う事の出来ない限定商品だ」
「何か、限定って響きがいいな」
そう聴くと、何か買いたくなってきたな。人って生き物は限定とかプレミアとか、そんな言葉に弱いし。
「さて、レンよ。このBバスターを何回か試してみるか?」
「え? いいの?」
「無論だ。ここではアイテムの消費はないので実質弾数無限で放てる。それに、一度試してみない事には物の良さと言うのは実際に分からないと言うものだ。私としても、実際に扱ってみて気に入った相手に買って貰いたい物だ」
あ、なんか言動的にこれ購入させる気満々だ。
まぁ、俺もニトが試しに撃ったのを見て、ちょっと欲しいなぁって思ったから丁度いい機会かな。試射してみて、個人的にも気に入ったら購入でいいだろう。
「因みに、値段は?」
「3500ネミーだ」
成程。一応買える値段ではある。
「……じゃあ、試し撃ちしてみてもいい? で、気に入ったら多分買うと思う」
「分かった。では、これらを一旦貸すので、装備してくれ」
俺はニトからBバスターとスローイングボムを借り、装備。
では、試し撃ちしてみましょうか。
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