第2話


「……わぉ」


 視界が戻ると、ヘルメットのバイザーは何時の間にか修復されており、俺は見知らぬ場所に突っ立っていた。

 いや、ゲームを始めたばっかりだから見知らぬってのは当たり前か。

 辺り一面砂の世界。空は澄んでいて綺麗な青空だ。雲が途切れ途切れに浮かんでおり、太陽が燦々と輝き辺りを照りつけている。

 砂の大地は砂漠と表現して差し支えないだろう。所々にオアシスっぽいのが確認出来、その周りには緑が生えている。

 勾配緩やかな所もあれば、急な砂丘も見受けられる。

 あと、結構遠くに半透明なドームが見られる。多分、あれが町なんじゃないかな?

 と言うか、何故に町の中からじゃなくてこんな砂漠のど真ん中からのゲームスタートなんだ? 開発者の趣味?


『チュートリアルお疲れ様でした』


 と、疑問符を浮かべていると目の前から先程も聞こえた機械音声で呼び掛けられた。

 視線を前に向けるも、そこには何もなかった。え? バグ?

 いや、何もない訳じゃない。なんかメンコみたいな物体が宙に浮かんでいる。

 これは一体何なんだ?

 そう思ったら、メンコっぽい何かから光が発せられ、球体に三角錐が二つ上の方に付いた何かがホログラムとして投影された。

 その球体には可愛らしい目があって、それが真っ直ぐと俺を見据えている。


 この球体とは初対面ではない。

 ゲームを開始した時、既に会っている。

 俺はこの球体と話しながら、ゲームの初期設定を行ったのだ。

 ただ、初期設定の際はこんなメンコっぽい奴は存在せず、しかもホログラムじゃなくて実体を持っていたけど。


 初めはゲーム内での名前を、次いで顔の造形や体形、性別を決めた。

 その後は世界設定や機械獣、リンクドスーツについての説明を受け、スーツの最初の調整を行った。

 そして、スーツの調整を終えると実戦という事で球体が消え、代わりにあの狼型の機械獣が現れたのだ。


『それでは「LINKED FORCE ONLINE β版」の世界をお楽しみ下さい』


 球体はお辞儀をして、ホログラムは消えて行った。ホログラムが消えても、メンコっぽい奴……投影機と言えばいいのかな? それは未だに宙に浮かんだままとなっている。

 何時まで浮かんだままなんだろう? と思っていると、投影機から今度は別のホログラムが中空に投影されたではないか。


『ステータス

 カスタマイズ

 アイテム

 所持金

 フレンド

 メッセージ

 パーティー

 マップ

 ログアウト   』


 メニュー画面とでも言えばいいのか? モニターの画面のようなホログラムにそんな内容のものが記載されている。

 取り敢えず、これに触れれば操作出来るのかな?

 俺は試しにステータスに触れてみる。


『プレイヤー:レイ


 リンクドスーツ:Lv1

 リンクド回路:3/5

 アイテムスロット:3/20


 装備:初期型ビームサーベル(1)

    初期型バスター(1)

    初期型ナックル(1)

 

 HP:120/120

 EP:100/100

 ATK:20

 DEF:10

 AGI:30

 DEX:30

 RES:10


 SP:0


 スキル:【リミットブレイク】      』

 

 おぉ、ちゃんとステータスがホログラムに表示された。

 うん、確かにリンクドスーツのステータスの値は自分が設定したものになってる。

 スーツの調整の際、HPとEP《エネルギーポイント》については初期値が固定されていた。なので、俺が調整したのは残り五つのパラメーターだ。

 ATKは攻撃、DEFは防御、AGIは素早さ、DEXが器用さ、RESは抵抗を示している。


 最初にSP《ステータスポイント》が100与えられ、それをその五つのパラメーターに振り分ける事になっていた。

 初期調整での下限は10で、上限が30。俺は機械獣相手には動きで翻弄しながら手数で勝負しようかと重他ので、AGIとDEXにポイントを上限まで割いた。

 反面、DEFとRESを犠牲にした。防御よりも回避を主体にすればそこまで問題じゃないかなと思ったので。


 HPとEPはレベルが上がれば自動で上昇するようになっており、他のパラメーターはレベルアップ時にSPが貰えるので、それを消費して上げる事となる。

 リンクドスーツのレベルは機械獣を倒し続けると上がる。なので、兎にも角にもまずは機械獣を倒しに行かねばならない。

 まぁ、当面は機械獣を倒しつつ、あの遠くに見える町っぽい所を目指すとしよう。


「じゃあ、行ってみるとしますか」


 俺はステータスを閉じて砂漠を歩き始める。

 思いの外砂に足を取られる事泣くサクサクと進む事が出来る。これはゲームの仕様か、はたまたリンクドスーツの性能故か。

 まぁ、考えたって仕方がないので気にせずに進んでいく。

 因みに、投影機は俺が移動するとついてきた。まぁ、メニュー画面を操作するのにこの投影機が必要になるから当然か。

 さえぎる物も無く、本来なら灼熱地獄であろう砂漠だけど、俺は暑さを気にせずにさくさくと歩を進める事が出来ている。リンクドスーツ様様だな。これが現実だったら、即座に水分が枯れ果てて干物になってるかな。


「おっ?」


 町に向かって歩いていると、目の前の砂が盛り上がり、中から機械の蜥蜴が出現した。

 大きさは大体家猫ほどで、砂を払う仕草が少し可愛らしい。

 まぁ、いくら可愛くてもこいつは機械獣。つまりはエネミーだ。

 その証拠に、バイザーにはエネミーを示す黄色の文字で【マキナリザード】と表示されている。

 マキナリザードは俺をロックオンしたらしく、大きく口を開けて跳びかかって来たではないか。


「っと」


 俺は身体を捻って蜥蜴型のマキナリザードを避ける。攻撃を避けられたマキナリザードはそのまま頭部を砂に突っ込み、抜け出そうと必死にもがく。

 これはチャンスだな。

 俺は腕に装備されているバスターをぶっぱなしてマキナリザードを攻撃する。

 五発ほど当てると、マキナリザードの身体は爆発して砕け散った。


 マキナリザードがいた場所に工具が入っていそうなボックスが一つ置かれている。

 このボックスは確か、機械獣を倒した際に得られるアイテムが入っているんだったな。

 俺はボックスを手に取り、蓋を開ける。

 中には発光している緑色の液体の入った楕円形のカプセルと電子回路みたいなのが剥き出しの平べったい直方体が一つずつ収められている。

 俺がそれ等に触れると、分解されてリンクドスーツへと吸収され、ボックスも崩れ去る。


『GET!

 ・Eエナジー×1

 ・23ネミー  』


 バイザーの右下にウィンドウが表示される。今手に入れたのがアイテムとゲーム内通過か。

 俺は今手に入れたアイテムの確認をしてみたいなぁ、と心の中で呟くと投影機からメニュー画面のモニターが映し出された。成程、メニュー画面を出すには思うだけでいいのか。

 アイテムの欄を選択して、Eエナジーについての説明を見る。


『Eエナジー:EPを20%回復する』


 Eエナジーの説明はとてもシンプルなものだった。

 EPはリンクドスーツのエネルギー残量を示しているので、尽きるとスーツの恩恵を受けられなくなる。

 エネルギーは主に移動や攻撃で減っていく。また時間経過でも僅かに減少する。

 他のゲームで言えば、EPはスタミナとMPに該当するのかな?

 現に、バイザーに表示されているEPは297となっている。マキナリザードに攻撃する前の数値は299で、バスターを五発撃って297になった。

 EPは時間経過では回復しないので、EエナジーのようにEPを回復するアイテムは重要だな。


「さてと、先に進むか」


 俺は止めていた足を動かし、町へと目指して再び歩き始める。

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