第5話

#5 繋がる過去と現在


 何日前からだろうか。実際には二日前程度からだろうが、なんだか長いようにも感じてしまう。


ー多分、前の図書室で話した次の日からだろうか?


あれから白鵜先輩が毎日のように「図書室で勉強をしながら、少しお話をしませんか?」と言ってくるようになったのだ。俺自身も中間テスト対策の勉強が出来て嬉しいが、白鵜先輩にこんなに頻繁に誘われる理由がないはずだ。

「話し相手が欲しいのなら、俺じゃなくたっていいはずなんだよな」

 と俺は朝食を食べながら呟く。

「どうしたの?ゆうくん」

 明里が不思議そうに顔を覗き込んでくる。

あまりにも明里の顔が近くにあったため、俺は少しのけぞる。

「いや、なんでもないよ。 それより、最近櫻川さんと仲良いんだってな」

 最近、明里は櫻川さんと仲が良いと聞いている。


ー部活動の設立を目指して話しているうちに仲が良くなったのだろうか?


「まぁ、仲が良いのはいい事だしな。 俺としても嬉しいよ」

「まぁね〜。 通じるものがあった、みたいな感じかな」

「二人に通じるものなんてあったんだな」

 そう笑ってやると、明里が頬を膨らませて俺を睨んでくる。

「私と長くいて、こうやってご飯も一緒に食べてるのにわからないの?」

 と、あまり意味のわからない事を言ってくる。

「さぁな。 わからんものはわからん」

「ゆうくんのそういう所が人を傷つけるかもしれないんだよ?」

「どういう所だよ?」

 俺は人を傷つけている気はないし、傷つける気もない。わからない事はわからないし、わかったふりなどをするのは、かえって相手に悪いことだと俺は考えている。

「はぁ……まぁ、いいや。 どんな所かわかったら気をつけてよね?」

「わかればな」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 四限目を終えて、昼休み。弁当を片手に呼び出された先へと向かう。

俺を出迎えたのは可愛らしい声。

「待ってましたよ、藍島くん」

「うん、でも早いね」

 俺を呼び出したのは櫻川美月。俺は授業が終わってすぐに出てきたつもりだったのだが、それよりも早かったらしい。

「ええ、前みたいにお時間を取らせすぎるのも良くないかと思って」

「わざわざ気にしてくれてありがとう」

 そこからはとりとめのない話を二人で続ける。

「そういえば、藍島くんって放課後どこに行っているんですか?明里さんが少し帰ってくるのが遅くなったって言ってましたよ?」

「ああ、放課後、図書室で勉強をしているんだよ」

「一人でですか?」

「いや、まぁ、正確には二人……だと思う」

 あの時間帯で 図書室にいるのは、俺と白鵜先輩だけ、だと思う。

「お友達とですか?」

「いや、先輩と……ね」

「先輩ですか?入学してからもう一ヶ月は経っていますから、先輩方とお知り合いになるのは不思議ではありませんけど……どうやって知り合ったんですか?」

「つまり、櫻川さんの友達作りのために聞きたいってこと?」

 そんな風にからかってみると、櫻川さんは顔を赤くし、否定をし始めた。

「ち、違いますよ!私のためとかではなくて!藍島くんがどうやってその先輩と知り合ったのか知りたいだけなんです!」


ー以外と話すのは面倒くさいし、本に埋まってた時、先輩恥ずかしそうにしてたし、先輩のプライバシーのためにも少し濁しておくか。


「まぁ、俺が図書室で勉強してたらわからない問題があってさ。その時に教えて貰ったんだよ」

「そうなんですか……でも、藍島くんって頭良いですよね?」

「まぁ、それなりには」

 櫻川さんは「その先輩頭良いんですね」と言い、感心していた。


そんな話をしながら、俺たちは弁当を一緒に食べていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 放課後。今日も白鵜先輩と勉強をする予定になっている。明里には櫻川さんから事情を説明してくれると言っていたので、メールは不要だろう。

「あれ、先輩、まだ来てないのか?」


ーいつもは先輩の方が早く来ているんだけどな……。


 そう考えていた時、俺の視界が突然真っ暗になる。誰かに目を隠されていると気づいたのは数秒後。

「だーれだ?」

 そんな声が俺の耳に届いた。

「……先輩、でしょう?」

 そう答えると、視界には光が戻ってくる。そして、そこには笑顔の先輩が。

「よくわかりましたね?私ってわかってくれて嬉しいです」


ーこの時間帯には俺たちしかいないのだが……


「さぁ、今日も始めましょうか」

 俺がそう言い、今日も雑談をしながらの勉強が始まった。


 勉強にだけ集中してから、一時間は経った頃。いつもなら俺たちはここで切り上げて帰宅の準備をし始めるはず、だが。

「あ……」

「雨が降って来ましたね……」

 先輩が外を見て、声を漏らしたので先輩が見ていた方向を俺も見てみると雨が降っていた。

「どうしましょうか?」

「そうですね……今日は雨が少し弱まるまでお話をしませんか?」

 先輩がそう提案して来たので、俺もその提案に賛成することにした。

「…………」

「…………」

 お互いに少しの沈黙が流れた後。先輩が口を開いた。

「私、昔にある男の子と出会ったんです」

 

 いきなりなんの話を?とは思ったものの、場の空気がそう聞く事を許さないような気がしたので俺は先輩の話を聞き続けた。

 それからも先輩の過去についての話は続いた。ある夏に男の子と出会ったこと。その男の子に助けて貰ったこと。そしてある「約束」をしたこと。

 一通り話終えてから、先輩が「藍島くんには昔、仲の良かった男の子や女の子はいましたか?」と聞いてくる。

 そこで俺は自分の中でも気になっていた事を先輩に話し始めた。


「先輩と似てるかもしれませんけど、俺は……ある夏休みに小さい女の子と会ったんです。 ……多分」

「多分?」

 先輩が最後についている多分という部分について尋ねてきた。

「俺は、昔の事をあまり覚えてないんですよ」

 それでも俺は、自分が覚えている限りの事を話した。

「鮮明に覚えていないので……これ以上は……」

 先輩がそんな俺の意図を汲んだのか、

「仕方ないですよ!昔の事ですし、鮮明に覚えてることの方が珍しいですしね!」

 と、言ってくれた。

先輩がそう言ってくれたので、俺も気が緩んでしまったんだろう。

 「ありがとうございます。 でも、すみません、先輩には『関係ない話』をしてしまって」


ーそう言ってしまった。


 俺のその言葉を黙って聞いていた先輩の方に目を向けるとーーー


「え?」

 先輩の目からキラリとしたものが数滴、こぼれ落ちた。


ー先輩……なんで……?


「っ!」

 そう考えているうちに先輩はカバンを持って

走り去って言ってしまった。


ー何が起きているんだ?俺が何かまずいことを言ってしまったのか?


ーあ…………。

 そうだ、よく考えれば気づけたんじゃないのか?先輩の話と、俺の昔の夢の話しが妙に一致していたことに。『関係ない』と言って彼女が泣いてしまったこと。そしてーーー

「あの女の子も、先輩も髪の色は…銀色だ」

 それが意味することとは、つまり。

「あの二人は同一人物……!」

 気づいたら、俺はカバンも持たずに、図書室から駆け出していた。

「はぁ、はぁ、はぁ!」

 

ー明里が言っていた事は、もしかしてこういう事だったのか?!俺は先輩を傷つけた……?


「くそっ!!」

 自分にとてつもない怒りを覚えつつも、先輩を見つけるために俺は水たまりの出来た道を走る。


 先輩を見つけたのは近くの公園だった。先輩は雨に打たれながらブランコに座っていた。

「先輩……」

 帰ってきたのは弱々しい声。

「すみません……いきなり飛び出して。 でも、もう大丈夫ですから……」

 雨に濡れているせいで先輩が泣いているのかわからない。でも、俺には先輩が泣いているように見えた。

「……え?」

 気づいたら俺は彼女を抱きしめていた。

「ごめん……俺、わからなくて。 ずっと思い出せなくて……ごめん」

 彼女の目が大きく見開かれる。

「もう、思い出したから。 あの女の子は『せなちゃん』……だったんだね」

 俺がそう言うと、彼女は声をあげて泣き出した。


ーそうだ。雪菜だから、『せなちゃん』って名前で俺は読んでいたんだ。


「私の方こそ、ごめんなさい……どうしても『ゆうちゃん』の方から気づいて欲しくて、思い出して欲しくて……あんな聞き方して」

「俺の方が悪いんだから、もういいよ」

「私のワガママでそんなびしょ濡れにさせちゃって、ごめんなさい」

「気にしてないから……風邪、引いちゃうからさ、俺の家で休んできなよ」

「うん……」

 

ー二人してびしょ濡れになって。服を乾燥機にかけなければいけなくて服を脱いだらったけど……すごく目のやり場に困る!先輩が来ているのは俺のTシャツだけなので非常に困っている。


「私ね、とても嬉しいんだ」

 心の中で葛藤中だった俺だが、先輩が話し始めた事で心を入れ替える。

「嬉しいって何が?」

「ゆうちゃんが覚えてくれてて……」

「……」

「こんな近くで好きな人と触れ合えるから……どうしてもゆうちゃんとずっと一緒にいたいって思って。 私、ワガママになっちゃう……」

「そういうものなの?」

「そういうものなの!」


ーおぉ、怒られてしまった。


「でも、大丈夫だよ。 せなちゃんは昔からワガママだったじゃないか」

「えぇ?そうかなぁ?」

 ワガママに決まってる。自分が楽しむために、危険な丘の上まで俺を連れて行ったのだから。


 だけど、毅然としたお嬢様は彼女には似合わない。少しワガママな彼女の方が俺は合っていると思うから。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 次の日。

「ゆうちゃんから話は聞かせて貰いました。 部活動を設立させたいのですよね?でしたら、私も入部させては貰えませんか?」

「えぇぇぇぇぇぇ!?」

「はぁぁぁぁぁぁ!?」

 悲鳴をあげた明里と櫻川さん。無理もない。

昨日、俺が部活動の事について協力してくれないかと頼んだところ、俺が入るなら、という事で入部してくれる事になったのだ。

「いきなりですまない、二人とも。 でも、これで部を設立する条件である生徒数は揃ったわけだ」

「それはそうですけど……藍島くん、この人は?」

 少し戸惑っている櫻川さんが聞いてきた。

「えーっと、この人は、二年生の白鵜雪菜先輩。 ほら、図書室の」

 櫻川さんが納得した様子で頷いた途端、先輩が過去の俺たちがした約束の事を言い出した。

「私は藍島泰くんの、ゆうちゃんの許嫁です!」

「なっ!それは昔の約束でしょう!?」

 が、俺のそんな声は聞こえておらず。

「藍島くん、どういう事なんですか!?」

「ゆう〜くん〜〜?」


ーダメだ……俺は生きていられないかもしれない……

 

 櫻川さんと明里に詰め寄られ死を覚悟する俺。

その後ろで満面の笑みを咲かせている先輩。


ーあぁ、やっぱり、ワガママな方がいいなんて間違ってたなぁ!!


 その笑顔を見て、俺は自分の考えが失敗だった事に気づいたのであった。





【部活動設立!!】

部員……櫻川美月、海城明里、白鵜雪菜、藍島泰

部活動名……アオハル部

           ↖︎

            このネーミングセンスはどうかと思いますけどね!泰


            アオハル部日記


              

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