第4話
#4 記憶の中の少女
「ね!きょうもいっしょにあそぼ!」
元気で、無邪気な声が頭に響く。
「うん!なにしてあそぶの?」
俺も同じく、元気に返答する。
「とぉくにいかない?」
「とぉく?」
「うん!パパたちからはなれてさ、わたしとゆうちゃんだけであそぼ?」
「いいけど…あぶなくない?」
「だいじょぶだよ!わたしがいるもん!」
その後、少女に連れられて幼い頃の俺は、見晴らしのいい丘に来ていた。
「たっのしーね!」
少女は大きな声で言う。
「はやいよー!まってよー!」
俺は少女に追いつくのに必死だった。
追いついて一息ついていた時、少女は蝶を追いかけ丘の上に走っていった。
丘の上、その下は崖になっている。
蝶に夢中で少女は気づいていない。
このままだと少女は…。
「あぶないよっ!」
危機一髪、そんな感じだった。
少女がそこから落ちそうになったのだ。
そこに幼い俺は彼女を助けようと走り出していたのだ。
彼女には怪我はなかった。
落ちないように横から押し倒した際、俺は顔面を強打し、眉毛の上の部分を岩で切っていた。
自分の視界は赤いカーテンで覆われ、目の前には泣きじゃくる少女。
「うっく、ひっく…ごめんね…ゆうちゃん…」
少女は何度も俺に謝ってきた。
「だいじょぶだよ、そっちにけががなくてよかったよ」
そう言葉にすると、彼女は顔を赤くし、よりいっそう泣いてしまった。
そんな少女が泣きじゃくりながらこう言った。
「ごめんねゆうちゃん…。わたしのせいでゆうちゃんが…。でも、こんどからはわたしがゆうちゃんをまもるからぁ」
守る、そう言われたのは嬉しいが、今となれば女の子に守ってもらうのはどうかと思う。
そして、幼い俺と少女はある約束をした。
「わたしがゆうちゃんをまもるから、だからねゆうちゃん、だから………」
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「ん、んんぅ」
「なんだか、すごく長い夢を見ていた気がするなぁ」
確か、昔の…小3くらいの夢か?
「なんで、今更なんだ?」
夢だからか、もう殆ど覚えてない。
「だけど、小3といえば俺は…」
俺の両親は海外で働いている。
何をしてるのかは知らない。というか、教えてもらえない。
幼い頃の俺はある質問を両親にしたのだ。
ー何をしているの?と。
が、俺の両親はこう言ったのだ。
「泰、秘密があった方が父さん、カッコいいと思うんだ。ミステリアスな男に女性は惹かれるだろう??」
今思えば何言ってんだ?と思うが、そんな父さんの意味不明な理由で父さん達がどんな仕事をしているのかわからなかった。
ただ、すごく移動をしたりする仕事だというのはわかっていた。
両親の仕事、ということで幼い頃、俺もよく両親と一緒に仕事がある場所へ行ったりしていた。
「小3の頃で一番大きい仕事といえば…」
俺たち家族が一番家を空けていた時期。
それは小3の夏休み。
家族揃ってある旅館に泊まりに行っていた。
仕事を含めて、という旅行だった気がする。
なんでも、とあるグループの社長を務めている人との会談?だっけか。
まぁ、実際は父さんの幼なじみって言ってたっけ。
その人が運営するグループと関わるようになるから親睦会?のような感じで夏休みにおこなわれたのだ。
ざっと、二週間くらい旅館を貸し切りにしていたらしい。
金持ちってすげぇな。
そこで俺は一人の少女と仲良くなったんだっけ。
「名前も覚えてないし、顔だって…」
あの時は毎日のように二人で遊んでいたはず…なのに。
時が経つと忘れてしまうような、そんな簡単な関係じゃなかったはずなのに。
少し寂しい。
「ていうか、なんで本当に今頃…」
そう思いつつ、時計を見る。
AM:7:40
「ファ!?」
急いで登校の準備をしていた時も、俺は昔出会った少女が誰なのかを思い出そうとしていた。
今日の授業はあまり身に入らなかった。
昼休みとかは弁当食ってる際に、櫻川さんと明里が廊下からこっちを見て「アタックチャンス!」などと言っていた。
いつの間に仲良くなったんだろうか。
あとなんのアタックチャンスだよ。
廊下でアタックチャンスと叫ぶ女子二人。
明らかに変質者である。
昨日と同じく図書室で勉強をしようと思い、図書室へ向かっていた所、あの人に会った。
「こんにちは、藍島泰くん」
白鵜雪菜先輩だった。
「先輩、こんにちはです。先輩もテスト勉強ですか?」
「それもあるのですが…昨日のお礼をちゃんと言えていなかったので」
先輩は昨日、本に埋まっていた所を助けたら顔を真っ赤にし、礼を少し言ったあと光の速さで帰っていった。
ーまぁ、恥ずかしいよな普通。
「そんな礼をだなんて。そのお気持ちだけで十分ですよ」
「そうですか、それではそうするとしましょう」
先輩は笑顔で言う。
!
その笑顔に何故か俺は…。
「さぁ、テスト勉強するんでしたよね?ああしてお会いできたのも何かの縁ですし、一緒にしましょう?」
少し戸惑いつつも、
「ええ、俺なんかと一緒で良ければ」
相手はあの白鵜グループの令嬢だ。断る理由はない!!
それからは一時間程、静かな時が続いた。
そんな時、先輩がある事を聞いてきた。
「藍島くん、ちょっといいですか?」
「なんでしょう?」
「気になっただけなんですけど、眉毛の上のその傷は…?」
聞かれた内容にびっくりした。
普通気になるか?
一時間程俺の眉毛を見ていた?
人の眉毛見るの好きなんだろうか。
「あぁ、これは昔、女の子が丘の上から落ちそうな所を助けた時に岩で眉を切って出来た傷で…」
俺氏、苦笑い。
だって自分から女の子助けたって言うのはなんか…なぁ?
俺は苦笑い。だが、先輩の目は大きく見開かれていた。
「…先輩?」
先輩はハッとした顔になり、
「あ、あぁなんでもありません!お優しいんですね藍島くんは」
と、言ってくれた。
「い、いえ…それほどでもありませんよ」
少し照れ臭くなり、ノートなどを急いで片付け、俺は図書室を去ることにした。
「そ、それじゃあ先輩、また明日!」
さすがに急すぎたのか先輩は戸惑っていた。
「え、えぇ!?ちょっと藍島くん?!」
聞こえぬフリをしてその場から俺は足早に立ち去った。
誰もいない図書室。
そこで驚きと嬉しさの気持ちが含まれた声で
「…やっと…会えた。夢…じゃないよね」
と呟く、再会した事に感動している一人のお嬢様がいた。
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「ね!ゆうちゃん!やくそくおぼえてる?」
「わすれないよ!ぜったいに!」
これは…前の夢の続き?
「わすれないで…」
なんで…。どうして今度は泣いているんだ?
「うん…。わすれないから…」
俺も、泣いてる。
そっか…別れ、って事か。
「ゆうちゃん。わたしゆうちゃんのことわすれないからぁ!ゆうちゃんとのやくそくもかならずまもるからぁ!」
「ぼくも、ーーちゃんとのやくそくまもるから!」
俺とはその後にこう言った。
「ーーちゃんとの のやくそくまもるからぁ!」
それが俺と少女の別れの言葉。
「え?」
朝、夢から覚めると俺の目から一粒の涙が落ちる。
ポロポロと、また一粒。
「泣いてんのか…俺?」
約束が何なのか…名前も…わからない。
「この子は、一体誰なんだ」
このように、俺は何度も同じ夢を見る。
もう一週間近く、同じ夢を見ている。
なのに、、、
少女の名前、そして交わした約束。
それらをずっと、思い出せずにいた。
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