没落魔剣士の救世譚(メサイヴ・レコード)
みなも@シャドウバン
第一章 黒剣の英雄と囚われの姫
プロローグ 「血塗られた結末」
不気味なまでに静まり返った深夜。
赤銅色に染まる、朧月の夜だった。
月光に晒された白亜の宮殿ーーーその宮庭もほんのりと赤みがかっている。
純白と真紅が交差する光景は不気味な感覚を呼び起こす。
「・・・・・・」
雲ひとつない満天の星空を、少女は静かに眺めていた。
王城の中心。
澱んだ空気、悪臭漂う宮廷。
少女の足には鋼鉄の足枷が付けられ、頑丈な鎖で繋がれており、歩く事さえ叶わない。
取り外しを試みたのか、小さな拳は鮮血で滲んでいた。足首には青紫の痣が垣間見え、見ていて痛々しい。
「・・・・・・」
彼女の頰は涙で濡れており、目の下が真っ赤に腫れていた。
耳を澄ませばピチャ、ピチャと水滴の落ちる音が聞こえる。それは涙だけではない。
粘り気を含む、鉄錆びた異臭を放つ液体。その液体は両手を濡らし、ローブを色染めるだけには飽き足らず、辺りを真っ赤な湖へと塗り潰している。
「・・・・・・」
視線を下ろした途端、眼前に広がる光景に心臓が早鐘を打った。
あかい。アカイ。赤い。朱い。紅い。
ーーー赤い。
生温い血液が少女の真っ白な素足を浸す。
少女は胸を押さえながら両脇に視線を送った。
そこには、
「・・・・・ぁ」
長い月日を共に過ごした秘書と、幼い頃からの親友の屍が転がっていた。
異常なまでに夥しい量の血液を流し、虚ろの瞳は少女を見つめている。
その残酷な光景に恐怖で心臓が飛び跳ねた。鼓動が高鳴り、肺は荒い呼吸を繰り返す。
突拍子もない嘔吐感に襲われ、胃酸が咽喉まで逆流する。
視界が赤と白で点滅し、世界が歪んで見えた。
「・・・・・・」
これ以上、絶望的な悲劇はあっただろうか。
理不尽な運命は少女を容赦なく地獄へ叩き落とす。
「・・・・・ぁ」
足下に倒れ伏せる、一人の人間の姿。自分を救うと誓願してくれた優しい少年は、ぐったりと力なく倒れている。
背中から滂沱の血を流す少年を、少女は愛おしそうに抱き締め、心の中で許しを乞うた。
ーーーごめんなさい、ごめんなさい、と。
自分のせいで死んでしまった三人へ。
ただひたすら謝罪する少女の耳に幻聴が聞こえた。
ーーーお前のせいだ、お前のせいだ、と。
雑音混じりの幻聴は幾度となく少女を責め続け、そしてーーー。
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