第2話
曇り空の下、二人の男が向かい合っていた。
「これでいいか?」
「ああ……十分だ」
建物にもたれかかっている長身の男は、小太りの男からスーツケースを受けとて満足そうに頷いた。
「悪いな、毎回」
気にするな、と小太りの男が答える。
「それにしても、何の準備をしているんだ?」と、不審そうに長身の男に尋ねた。
「それは聞かない約束では?」と問われた彼は答える。
それもそうだな、と小太りの男は答えた。じゃあな、と言い残して建物へと歩いていく。
小太りの男が姿を消したのを確認して、長身の男はスーツケースを地面に置き、中身を確認する。
「これでそろったな……」と男は呟いた。
長身の男は、タクシーに乗り、自らの拠点へと戻ってきた。自身が勤める大学の研究室である。研究室前のネームプレートには、田中、と書かれていた。
四方を囲むように配置されている本棚のため、室内はせせこましい。床には資料やら本棚やらが散らばり、普段から移動する田中の行動範囲のみ、獣道のようにかき分けられていた。
田中は窓を背にする椅子に座り、机の上にスーツケースを置く。開いて中身を見つめた。
黒光りするそれは、何かのパーツのように見える。田中はそれを手に取り、うっとりと眺めるのだった。
「これでようやく揃った」と呟く。
立ち上がり、本棚の前に移動する。本の束を鷲掴み、ガサッと床へと落とす。隠れていたボタンを田中は押した。
すると、わずかな音を立てながらゆっくりとひとつの本棚が移動する。四方を本棚で囲むことによって、隠れていたスペースが姿を現した。
そこには、先ほどのスーツケースの中身と似たような黒光りするものがいくつか存在していた。
田中はそれらを手に取り、体のあちこちに装着していく。全てを装着し終えた時、田中の体が光りだした。
「フォォォオオ……」
田中の口から声が漏れる。そして、黒光りする各パーツが田中の心拍と動機を始めた。田中の脈拍と同調するかのように、各パーツが膨張と収縮を繰り返す。
田中は本棚の位置を戻した上で隠しスペースの中でしゃがみこみ、満足そうに微笑んだ。
後日、大学の事務室に学生からの連絡が入る。田中教授が授業になっても現れないとのこと。事務室から教授の家に電話を入れても応答なし。研究室にも不在。
さらに後日、教授の私物および研究室の明け渡しのため、田中元教授の部屋に清掃が入る。その際、黒光りする、ダチョウ一匹とほぼ同じ大きさのような、卵のようなものが本棚の裏から発見されたとのこと。
ヒビを入れ、卵の上端を割ってみたところ、中には田中元教授が座禅を組み目を閉じた満面の笑みのまま、死んでいたとのことである。
了
東野みやこは「曇り」「裏取引」「最強の大学」を使って創作するんだ!ジャンルは「サイコミステリー」だよ!頑張ってね!
#sandaibanashi
https://shindanmaker.com/58531
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