第9話 殿の決断
「殿、
「うむ」
「敵方の大将は、
「うむ、
「殿、いかがなさいますか?」
「殿・・・」
「殿・・・」
幾人もの家臣達が、
この殿とは、
ただこの城主は、戦国の世にあっては決して
むしろ
まあ、その分、国は栄えないまでも不満をもらす者もなく、俗に言う『良き親方様』といったところなのだ。
しかし、
最初に口火を切ったのは、若手家来衆の一人、
「恐れながら、殿に申し上げまする」
「なんじゃ、早八郎」
「羽柴筑前殿は、すでに本城を囲む備前の
「なに、周りの城は、すでに調略されたか?」
「ははあ」
城主永春は別に落胆するわけでもなく、慌てるわけでもない。言うなれば、この状況を正しく分析する能力に欠けているのである。
「羽柴筑前め。あの百姓出の、成り上がり者がしそうなことだわ」
城主は苦々しいといった感じで唇をかむと、腰の刀に手をかけた。
猪熊早八郎はじめ周囲の者は、この殿の行動に覚悟を決めた。
「殿!」
「殿!」
「これで、死に場所を得たわ」
家臣の中には、刀の
「あんや、しばらく・・・」
若手侍の
「殿、敵方は三万有余に対し、御味方はニ千。負けるをわかって攻めるは、
「ご家老、何を申されます。籠城して勝つ戦などありませぬ」
すかさず、早八郎が噛み付く。
「安衛門、我が方はたったのニ千と申すか?」
これには、家臣のほうが驚いた。
城主たるもの、自分の兵力も知らないで、戦を仕掛けようとしていたのかと・・・
安衛門は続ける。
「兵糧、
「殿、耐えて戦うも兵法のひとつ」
「殿!」
老臣達はこぞって、打って出ることの不利益を説く。
「安衛門。余は籠城するぞ」
「ははあ」
「殿、お待ちくだされ。先の
早八郎の言葉は、涙で途切れた。
「まことか、早八郎」
「殿、姫崎城と我が城では備えも違いまする。また、井戸も枯れることが御座いませぬゆえ、姫崎城のようにはなりませぬ」
「それを聞いて安心したぞ、安衛門」
しかし、この後も、決断は二転三転した。
家臣の中には、織田方に
猪熊早八郎はじめ、若手家臣達は、老臣達に尋ねた。
「如何にするのが、生きる道かと」
返して溝口安衛門はじめ、老臣達は改めて若手家臣達に尋ねる。
「如何にするのが、生きる道かと」
二時ほどして、永春がみなの前に現れた。
心なしか、晴れ晴れした顔をしている。永春は家臣達に向かって決断を下した。
「
「・・・」
「早八郎、そち達だけを戦わせわせぬぞ。余も先陣を切って、敵に一泡吹かせてやるつもりだわ。どうじゃ、早八郎」
「・・・」
そこに、敵である羽柴方の
「
一つ、大瀧城城主、長船永春殿の首と引き換えに、家臣一同はじめ、領民にいたるまでの命を
一つ、今後家臣一同は、我が主羽柴筑前上秀吉殿の
一つ、領民については・・・」
使者は一言一句間違えぬように、主人羽柴秀吉の
しかし、城主長船永春は
「
「・・・・・」
「・・・・・」
家臣達は、みな口々につぶやいた。
「ご家老、どうかご決断を!!」
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