第2話 意味は分からないが契約はする②
「清村。お前、俺の相方になる気はないか?」
「喜んで!!」
「返事が早過ぎて逆に驚いた」
私は状況反射的に影井さんの言葉に返事をしていた。
相方ってどういう意味だろうか。
でも、今より近しい存在になれるのは間違いない。
多分彼女って意味ではなく相棒的な意味だとは思うけど。
「申し出は喜んでお受けするつもりですが、何の相方でしょうか」
「先にそれを確認してから返事はするものだろうに……陰陽士の刃にならぬか、ということだ」
「陰陽士の刃……?」
影井さんの言葉を馬鹿みたいに鸚鵡返しすると、影井さんは頷く。
「陰陽士は、より仕事を確実にこなすために刃となる者を雇うことが多いのだ」
「妖怪退治の仕事を手伝うってこと……ですか?」
「そうだ。何しろ妖怪や死霊共は普段屍鎧(しがい)という殻を身に付けておってな。これを破壊して霊態(れいたい)にしなければ封印や除霊が出来ん。となると一人でやるにはそれなりにリスクも大きいからのう」
シガイを破壊、っていうとさっきみたいにひたすら幽霊をボコるってことかな。
確かに殴る蹴るは得意分野ではある。
「別に俺一人でもやれんことはないが……お前と組めば仕事が早そうだ。妖怪や死霊は強くなればなるほど強固な屍鎧を身にまとうからな」
「それは私の腕を買うってことですか?」
「そうだ。先ほどの棒術、見事だった」
「……なら、ちょっと条件があります」
うずうずとするのを必死に抑えて私は顔を上げた。
「その腕の傷が治ったら……私と全力で勝負してください」
「なに……?」
「私にはわかります、影井さんはきっと強い。どれだけ強いか知りたい」
私のその言葉に影井さんは目を見開いた。
その瞬間、拳が飛んできた。
見切れるか見切れないか、ギリギリのライン。
けれど、私はその拳を何とか受け止めた。
「ほう、止めるか。割と本気だったんだがのう」
「見くびらないでください。手負いの拳なんか……!?」
更にそこから逆の足が飛んでくる。
必死に私はその足を掴んで止める。
「嘘、絶対手負いなんて嘘。威力がヤバイ」
「言っただろう、俺は強者だと」
「すごい納得」
相手の手足を離して突き飛ばすように間合いを取る。
相手から鬼のような殺気を向けられて私はひるみそうになった。
けど、駄目。わくわくが止まらない分、全力じゃないことが引っかかって仕方ない。
「でも、言いましたよね? 全力で勝負して欲しいって」
「手負いならよいハンデになると思ったんだがのう」
「駄目。怪我を庇っているせいで威力が出し切れてない。今の蹴りと拳で出血がちょっと増えた。影井さんがよくても、こっちが遠慮して全力で戦えない」
構えを解いて私は首を横に振った。
影井さんの殺気がすっとおさまる。
と、同時にうずうずと疼く心が少し落ち着いた。
「俺に負けたらお前のプライドが傷つくのではないか?」
「負けないから大丈夫」
「たいした自信だ」
「私は強者だから」
はぁっとため息をついて私は空を見上げる。
びっくりするくらい抜けるような青い空。
深く吸い込めば少し磯のニオイのする風が肺に染みる。
「今日は変な一日ね」
「うん?」
視線を影井さんのほうに向けて、私は言う。
「上履きに納豆が入っててそれが影井さんにクリティカルヒットした」
「流石にあれは素が出そうになったのう」
「屋上でご飯食べてたらなんか突然影井さんがやってきた」
「元より陰湿な嫌がらせには気づいておったしな。今日ので何となく気になって追いかけただけだ」
「お化けが出た」
「元々ここは死霊の巣窟だ。だから俺はここにきた」
「影井さんの刃に、私がなった」
「お前が強者だからだ」
私の言葉に淡々と答える影井さんが可笑しくて私はふふっと思わず笑みをこぼした。
学校で、こんな風に笑ったのは久しぶりだ。
お嬢様に目を付けられてからは、笑ったことなんか一度もなかったかもしれない。
「陰陽士の刃……かぁ。なんか格好いい」
「俺たちは一般に自らの刃のことを懐刀(ふところかたな)と呼ぶ」
「へぇ……じゃあ私は影井雅音の懐刀、清村椿か」
ああ、いいなぁ。
ただの女子高生から、影井雅音の懐刀、格好いい名前がついた。
そんなことを喜んでいる私を見て、影井さんはくくっと笑う。
「前向きだのうお前は。本当によい懐刀が出来た。お前の真の力を見られる日が来るのが楽しみだ」
「真の力?」
「俺と組んでいればわかる。お前はただの用心棒ではないからな」
「具体的には何をすれば……?」
首をかしげている私に影井さんは歩み寄る。
そしてジッと私を見つめる。
「次に死霊や妖怪と戦う場面になればわかる。が、契約がまだだったのう」
「契約ってなにをするんですか?」
「うむ、肌と肌を合わせて俺とお前の気を混ぜるんだがどういった手段をとればよいか……」
「いちいち言い方がやらしいな」
顎に手を当てていう影井さんに思わず私は突っ込んでしまう。
「普通に握手でいいんじゃないですかね……」
「味気ないのう、ねだれば口付けの一つもしてやるものを」
「セクハラ親父か!!!」
はぁ、なんか突っ込み疲れた。
けど、すごく楽しい。
「ふむ……では手をだせ清村」
「はーい」
差し出した手を握られた瞬間、私の頭の奥底から何かがブワッと吹き上げてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます