第7話

 退院祝いと称して、ミツルが食事に行こうと言い出した。賑わう土曜日の夜の街へ二人でくりだす。一軒の店の前でミツルが足を止めた。

「ここだよ。」

ミツルの馴染みの店でいい所があるというので、ただついてきたユウタだったが、その店の入り口を見つめて固まった。

「…ここ?」

それこそファッションモデルがうじゃうじゃいそうな、お洒落なイタリアンバルだ。

「そっ。ここ、ピザがうめぇんだ。」

「へ、へえー…でも、僕、ピザじゃなくても…。」

「よし、行こう。」

ミツルは、戸惑うユウタの腕を掴み、店に引きずり込んだ。

「おっまたせー!」

女の子が二人で座っているテーブルに手を上げて、ミツルが近づいていく。

「え?」

ユウタは、ただただ引っぱられていく。

「おっそーい!」

おかっぱ風のヘアスタイルに独創的な服を着た女の子が、口を尖らせてミツルを指差した。

「わりぃ、わりぃ。」

ミツルは、片手で謝る仕草をしながら、テーブルの傍らに立った。

「こいつ、俺の同居人で、鈴木ユウタってんだ。」

ユウタの肩を抱き、二人の女の子に紹介する。

「よろしくね。私、リョウコ。」

おかっぱ頭の女の子が、頬杖をついてニッコリ笑う。

「す、鈴木です。」

ユウタは、どぎまぎと会釈をした。隣に座っている女の子はミカというらしい。リョウコとは違い、あっさりとした格好で、サラサラの黒くて長い髪の毛が赤ちゃんのようなすっぴん肌を引き立てている。どちらもタイプは違えど、スラッとしていてセンスがいい。ミツルのモデル仲間だ。いつものようにミツルと二人で食事をすると思っていたユウタは、無理やり椅子に座らせようとするミツルに小声で言った。

「なに?これ…。」

ミツルは、ニッと笑って、

「たまには、大勢で食べんのもいいだろ。」

と、ユウタを椅子に座らせた。ユウタが戸惑っている間に、飲み物が運ばれ、乾杯がすむと、ミツルが切り出した。

「こいつ、小説家!すごくねぇ?」

そう言って、ユウタの肩をポンポンと叩く。ユウタは、飲み物を吹き出しそうになる。

「えー!すごーい!」

「でも、そう言われればそんな感じ。」

「言えてるー!」

女子が、盛り上がる。申し訳なさそうにユウタが弁明する。

「いや…まだ小説家ってわけじゃないんだ。」

「でも、賞もらってんだよな。で、只今作品を絶賛執筆中!」

ミツルが、ユウタの必死の弁明をぶち壊す。

「どんなお話を書いているんですか?」

ミカが、興味ありげに尋ねてくる。

「いや…そんなたいした物じゃないから…。」

「ベストセラー作家の卵だぞ!」

空になったグラスを掲げてミツルが声をあげる。

「もぉ、やめてよ!」

ユウタは、いたたまれずにミツルの背中を叩いた。ミカが、クスッと笑う。

「鈴木さんて、優しそう。」

「おっ!ミカちゃん、いいところに気がついたね!」

ミカの一言に、ミツルが食いついた。

「こいつ、ホント優しいんだよ。住むトコ無くなった俺を、家に泊めてくれてんだぜ。」

「え?本当に?」

「優しーい!」

女の子二人に見つめられ、うつむくユウタ。

「じゃあ、動物とかお好きですか?」

と、ミカがユウタに尋ねる。

「犬、飼ってるもんなー。」

ミツルが、ピザを頬張りながら答える。ミカが少しひきつった顔をミツルに向けてから、ユウタに尋ねる。

「どんな犬ですか?」

「スピッツだよ。真っ白でフワフワでな。かわいいぜー。」

と、得意気にミツル。ミカが、苦笑いでミツルを見つめる。ついにリョウコが、

「あんたに聞いてないって!何もう!さっきから。」

と、突っ込んだ。

「え?あ、そうか。悪い悪い。」

ミツルは咳払いをして、椅子に座り直した。ミカが、クスクスと笑う。リョウコも、プーッと吹き出した。それまで縮こまっていたユウタも、つられて笑い出す。それからは四人とも打ち解け、楽しい飲み会になった。偶然にもミカは文学少女だったらしく、奇跡的にユウタも話題に困る事なく話ができた。好きな作家や小説の話で、ユウタとミカの話は尽きることはなかった。ユウタは、ミツルの用意してくれた時間を楽しむ事ができた。


 「あー、楽しかった。」

女の子達と別れた帰り道。ユウタは、大きく伸びをしながら言った。

「そうか?」

ミツルが、嬉しそうに聞き返す。

「うん。ピザ、ホントにおいしかった。お酒も飲んじゃったし。美味しいお酒だったなぁ。」

ユウタが、うっとりしながら夜空を見上げた。ミツルはフフンと笑って、

「ミカちゃんと話が合ってたみたいだな。」

と、ユウタの脇腹を突っついた。

「え?うん。ミカちゃん、読書が趣味なんだって。」

「なんか、いい感じだったぞ。」

ユウタの笑顔が、苦笑いに変わった。

「何言ってんの?もう。」

「まぁ、まぁ。いいじゃん。」

「うん。久しぶりに大勢でお酒飲んで、楽しかった。」

「余計な事かとも思ったんだけどな。」

「ううん。そんなことないよ。嬉しかった。」

「そうか。なら、いいけどよ。」

ミツルは、ぐるりと街を見渡した。

「どうする?ラーメンでも食っていくか?」

「さっきまであんなにお洒落だったのに、急にラーメン?」

「もう、気取らなくていい二人だけになったからな。」

「でも、ラーメンはパスかな。調子に乗って食べ過ぎちゃったみたい。」

そう言って、ユウタは胃の辺りを押さえた。

「大丈夫か?」

慌ててユウタの肩に手を回すミツル。ユウタが、安心させるように笑って言った。

「大丈夫だよ。帰って寝れば治っちゃうから。」

「そうか?じゃ、行くか。」

ミツルは、ユウタの肩を抱いたまま、歩き出した。ユウタの歩調に合わせ、ユウタを守るように。


 ミツルは、顔をしかめた。軽く下唇を噛みながらスマホを見つめる。ミカから連絡が来ていた。ユウタともう一度会いたい、という内容だった。これがどういう意味なのか。当然、理解できたから、ミツルは困っていた。迷ったあげく、「ユウタは会わない」と、返信した。これでいい。ミツルは、自分を納得させるように頷くと、スマホをポケットに滑り込ませた。


 帰宅してから、ミツルはミカの一件をユウタに話した。ユウタは、少し驚いた様子だったが、小さなため息をつくと、

「僕も会うつもりはないから、断ってくれて助かったよ。」

と、ミツルに例を言った。

「そうか…俺が勝手に返事するのもどうかと思ったんだけどよ。だけど…さ…。」

ミツルが申し訳なさそうに話すのを見て、ユウタは微笑んだ。

「ありがとう。ごめんね。気を使わせちゃって。」

「い、いや、俺の事はいいんだよ。」

「僕の病気の事、話してもよかったのに。」

「まぁ、話さなくても諦めてくれたみたいだからよ。」

「うん…。」

ユウタは、少し寂しそうに頷いた。


 その翌日、ミツルは事務所の入り口を抜けてギョッと足を止めた。ミカが、受付の横に立っていた。ミカは、すぐにミツルに気付き、走り寄ってきた。

「よ、よお。」

平静を保てないミツルは、ひきつった笑顔で片手をあげた。ミカは、頭を下げた。

「すみません。こんな所まで押しかけて。」

切羽詰まった顔をしている。ミツルは、予想がついていたが、あえて尋ねた。

「ユウタの事か?」

「はい。」

真剣な顔つきのミカ。

「ユウタさんに会わせてほしいんです。」

ミツルも真剣な顔つきになり、ミカに向き合う。

「もしかしてミカちゃん、ユウタに惚れてる?」

ミカの白い肌が、サッと赤くなった。ミツルは、更に尋ねる。

「付き合いたいとか、思ってる?」

頬を染めたまま、ミカはゆっくりと頷く。ミツルは、複雑な思いでミカを見つめた。

「あの…?」

自分を見つめ続けるミツルに、ミカが声をかけた。ミツルは、頭を掻いた。

「 ミカちゃんさ。」

「はい。」

「俺、今から大事な話するけど。」

「…はい?」

「落ち着いて聞けよ。」

「は…はい。」

ミカは、胸に手をあてた。ミツルは、深く息を吸い込んだ。そして、告げた。

「あいつは、もう長く生きられない。」

「…え?」

「ガンなんだ。」

ピンク色だったミカの頬が、スッと白くなった。大きな目を見開いたまま、じっとミツルを見ている。ミツルは、耐えられずに目をそらす。

「あの飲み会の時には、もうわかってたんだ。俺が、ユウタを楽しませようと思って、リョウコに声かけたんだよ。リョウコの友達なら、ユウタに合うような雰囲気の子が来るかと思って。だけど…こんな展開になるとは、思いもよらなかったな…。」

ミカは、ずっとミツルを見つめていた。その視線はミツルの方を向いてはいたが、どこか遠い所を見ていた。ミツルは、控えめに咳払いをし、

「そういう事だからさ。ごめんな。」

と、優しくミカの肩を叩いた。ミカは、まだ遠い所を見ている。

「おい。大丈夫か?」

ミカの顔が、少しずつ下を向いていく。泣かれる…ミツルは、身構えた。が、予想に反して、ミカは威勢よく顔を上げた。

「それでも、私は会いたいです。」

「は?」

「ユウタさんに、直接言いたいです。」

力強い視線だった。ミツルは、唇を噛んだ。結果は、わかっている。恐らく、傷が広がるだけだろう。でも、ミカは「それでも」と言った。ユウタに会って気持ちを伝えないまま、終わりにしたくないのだろう。ユウタは「会うつもりはない」と言っていた。でも、会えば何かが起こるかもしれない。今までモヤモヤしていたミツルの心に、うっすらと光が差してきた。

「わかった。」

ミツルは、踵を返し、事務所を出た。ミカは、慌てて後を追った。

「今から、ユウタに会わせる。」

ミツルは、歩きながら言った。

「えっ?」

ミカは、小走りでミツルの横に並び、ミツルの顔を見上げた。口を一文字に結び、まっすぐ前を見て歩いている。

「あ、あの…。」

ミツルの歩幅に負けないように、小刻みに足を動かしながら、ミカが声をかける。

「あの、私、そんな急に…。」

「言うんだろ、ユウタに。」

前を向いたまま、ミツルが言った。

「え?」

「直接言うんだろ、ユウタに。」

歩いているせいか、声が少し震えて聞こえる。ミカは、奥歯を噛み締めた。

「はい!」

そして、前を向き、ミツルと共に歩いていった。


 「あれ?」

部屋に入ってきたのが、ミツルだけではないことに気付き、ユウタはパソコンの前から立ち上がった。ムーはユウタの足元で、見知らぬ来客に向かって吠える。

「あの…お邪魔します…。」

緊張した面持ちで、ミカがミツルの後ろから姿を現した。

「あ…ミカちゃん。こんにちは。この前は、ありがとう。」

ユウタは、ミカに微笑んだ。

「いえ、こちらこそ。楽しかったです。」

ミカは、ペコリと頭を下げた。ミツルが、咳払いをする。

「ミカちゃんが、それでも、お前と話がしたいんだと。」

ユウタは、わずかに目を見開き、ミカを見た。ミカは、体を硬直させうつむく。ミツルは、まだ吠え続けるムーを抱き上げた。

「じゃ、俺、公園に行ってくるわ。」

早口にそう言うと、そそくさと出ていった。ユウタは、ミツルの出ていったドアを見つめていたが、すぐにミカに微笑んだ。

「まあ、座って。」

ミカにソファをすすめ、

「コーヒーいれるね。」

と、キッチンへ向かう。ミツルの為におとしておいたコーヒーを、ミカの前に置いた。

「ありがとうございます。」

ミカが、恐縮して礼を言う。ユウタは、少し離れてソファに腰かけた。部屋には、ユウタが小説を書きながら聞いていたポップスが流れている。二人は黙ったまま、それを聞いている。ユウタは、なれない展開に人さし指で頬を掻いた。

「ええと…。」

ミツルがいれば、色々と盛り上げてくれるだろうが、今はいない。どうしたものかとユウタが小さなため息をついた時、ついにミカが口を開いた。

「私、ユウタさんにどうしても会いたくて。」

「あ、うん…。」

「私、あの…。」

ミカは、なかなか切り出せない。

「あの…お付き合い………した方っています?」

緊張の為、とんでもない事を口走ってしまった。

「え?」

「あー!いえ!何でもないです!ごめんなさい!やだ!私、何言ってるんだろう!」

両手をバタバタさせて謝るミカ。その姿に、ついにユウタの顔に笑みが戻った。

「大丈夫、大丈夫。うん、いたよ。」

律儀に答えるユウタの言葉に、ミカの動きが止まる。

「あ…いたんですか…。」

「でも、振られちゃった。」

肩をすくめ、笑うユウタ。

「デートの約束してたのに、小説を夢中で書いてて行くの忘れちゃったんだ。」

「え…。」

絶句するミカに、

「だよねぇ。彼女もすごく怒っちゃって。それで、振られちゃった。」

と、舌を出して笑った。その笑顔を見て、ミカは自分に確認するように呟いた。

「でも、好きな人が好きな事に夢中になっているんだから、私はいいと思う。」

ユウタは、申し訳なさそうな顔になった。

「でも、一回だけじゃないんだ。何回もそんなことしてるんだ。」

「でも、私はいいと思う。」

ミカは、ユウタを見つめた。その瞳は、飲み会で自分の好きな作家についての持論を曲げなかった時の瞳と一緒だった。

「ミカちゃんらしいね。」

ユウタは、微笑んだ。ミカは我に返り、慌ててうつむいた。部屋に流れる曲が、スローなラブソングに変わった。まるで、ミカを後押ししているかのようだ。ミカは、ゆっくりと顔を上げてユウタを見た。

「好きです。」

突然の告白にも、ユウタは優しい眼差しでミカを見つめている。

「お付き合い、していただけませんか?」

ユウタは、微笑んだ。それは、ミカが初めて見る、息を飲むほどの美しい笑みだった。体全体を包み込まれているような感覚に、ミカは心臓がはち切れそうになる。けれど、その瞳は、すぐに陰り始めた。

「ユウタさん?」

たまらずミカは、名前を呼んだ。ユウタは、陰りを帯びた微笑みのまま、薄い唇を開く。

「僕はもうすぐ死ぬから、付き合えない。」

時が止まる。ユウタが、再び唇を開く。

「って言っても、君はそれでもいいって言うんだろうな。」

ユウタの微笑みは、優しいけれど悲しい笑みに変わっていった。

「僕は、君の事は友達としか思えない。長く生きられないからとかじゃなく、単純にそんな気持ちは無いんだ。」

ユウタを見つめるミカの瞳が、揺れた。

「ごめんね…ミカちゃん。」

ユウタはうつむき、もう一度言った。

「ごめんね…。」

なんて綺麗な横顔なんだろう。この非常時に、ミカはそんなことを考えていた。だけど、それ以上にこの人の心は綺麗で…それを知ったら、誰だって側にいてあげたくなるに決まってる…。

「ユウタさん…。」

ミカは、ユウタの手を握った。驚いて顔を上げたユウタに、ミカは顔を近づけた。ありったけの思いを込めて、ユウタにキスをした。握ったユウタの手は動かない。流れていたラブソングが、終わった。ミカは、ゆっくりとユウタから離れた。見つめ合うと、ミカはユウタの瞳が物語る事を読み取った。ミカは、そっとユウタの手を離した。そして、ソファから立ち上がった。

「帰ります。」

ユウタは、 黙ってミカを見上げている。ミカは、ユウタを見下ろして笑ってみせた。

「ユウタさんに会えて、よかったです。」

ペコリと頭を下げ、もう一度ユウタに笑顔を見せると、歩き出した。部屋のドアノブを握った時、

「ミカちゃん!」

ユウタが、ミカの名前を呼んだ。ノブを握ったまま、ユウタの方を見る。

「僕も、君に会えてよかった。本当にありがとう。」

いつもの優しい笑顔だ。ただ違うのは、眉毛が下がっていること。ミカの視界がみるみる滲み出す。

「えへッ。」

やっとそれだけ声にだすと、勢いよくドアを開け、部屋を飛び出した。


 「ねぇ、どいてよぉ。」

公園のブランコにムーを抱いて座るミツルに、男の子が文句を言っている。

「あぁ?そっちのが空いてるだろうが。」

ミツルが、アパートの方を見たまま、隣のブランコを顎で示す。しかし、男の子は譲らない。

「こっちに乗りたいんだよぉ。ねぇ、どいてよぉ。」

「ったく、うるせぇなぁ。」

ミツルは、しぶしぶ立ち上がった。その時、アパートからミカがでてくるのが見えた。

「おい!」

ミツルは、声をかけてからハッとした。ミカが立ち止まり、涙を拭いてからこちらを見たのだ。ミツルは、ただミカを見つめた。ミカは、頭を下げた。そして、勢いよく頭を上げると涙顔で微笑み、足早に去っていった。ミツルの胸がズキンと痛んだ。ため息をつき、ミツルはアパートを見上げた。ユウタは、どうしているだろうか…。ミツルは、部屋へと急いだ。

 部屋に帰ると、ユウタはソファに腰掛けていた。ぼんやりと空を見つめている。

「よぉ…。」

ミツルは、ムーを床におろした。ムーはソファに駆け寄り、ユウタの横にぴったりとくっついた。ユウタは、ミツルに無気力な笑顔を見せた。こんなユウタの笑顔は初めてだ。

「どうした?」

ミツルは、ユウタの隣に腰掛けた。

「大丈夫か?」

目を閉じるユウタ。体中の力が抜けてしまったかのようだ。

「ミカちゃん…諦めてくれたんだろ?」

ユウタは微かに頷いた。ミツルは、なんとも言えない気分でため息をつく。

「そうか…。」

ユウタは、目を閉じたままだ。

「まぁ…よかった、って事だよな…。」

「うん…。」

消えそうな声で返事をしたユウタの閉じた瞳から、涙が流れた。

「僕は…酷い事をしたんだ…あんな素敵な子に…。」

「ユウタ…。」

ユウタは、ゆっくりと目を開けた。

「傷つけちゃった…ミカちゃん…傷ついたよね…。」

また涙がユウタの頬を流れる。ミツルは、ユウタの肩にそっと手を回した。

「ごめんな。俺が…余計な事したから…。」

ユウタは、鼻をすすって言った。

「ミカちゃん…すぐ元気になるよね?」

ミツルは、ユウタの肩に置いた手に力を込めた。

「おう。大丈夫だ。あの子、あれでなかなか強いぞ。」

フッとユウタが笑う。

「だよね…。」

ミツルの胸が痛む。

「俺…ホント…ごめん。」

「謝らないでよ。本田くんは、僕の為に色々やってくれてるんだから。」

「でもよ…。」

納得いかない様子のミツルに、ユウタは微笑みかけた。

「ありがとう。いつも僕の為に。」

優しい声だ。ミツルは、何も言えず、ただ頷いた。ユウタの笑顔がまた少し明るくなって、隣にいたムーを膝に乗せた。

「女の子は、ムーがいてくれるから十分だよ、ね。」

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