2-2 Los Angeles: Downtown, South Main Street
ダウンタウンの街路は破壊されたオートロイドの残骸やら人の血痕やらで覆われていた。そんな中でも
僕らの周りは常にナノマシンで溢れている。今、世界中にそびえている巨大構造物のほとんどは
装甲車はサウスメインストリートで停止した。運転手曰くロサンゼルス新市庁舎が救援活動や詳細調査の拠点となっているらしく、通りは軍や消防などあらゆる所属の車輌が列を成している。
「すみませんね。ここからは徒歩で移動していただきます。周辺は既に車と廃棄されて積み重なったオートの破片で溢れてるもので」
「いえ。それにしてもここまでとは。建物が無事なのは幸いですかね」
「LAの
四〇〇メートルほど歩いたところでようやく庁舎が見えてきた。ガラス風
動作を停止した自動ドアは取り外されており、代わりに重装備の兵士が二人立っていた。腕に持っているのは陽電子狙撃銃。対人装備のそれとは大きく逸脱しているが、肩にエストニア国旗とアルファベットの「E」が三つ入っているのを見て、彼らが対オートロイド戦闘に特化した
「トリプルEの兵士ばかりで西米軍が見当たらないですね」
「ああ、私共は彼らの後方支援と、西アメリカの各主要都市及びミシシッピ国境地帯の防衛任務に当たっています。特にミシシッピでは大量の軍用オートが稼働していますからね。国防総省も震えていますよ」
かつてはペンタゴンと呼ばれていた米国国防総省は核の炎に消え、その通称も次第に消滅した。大戦後、無法地帯と化した東海岸。米国臨時政府は東海岸の復興を断念し、ロサンゼルスに行政機能を移転、冷戦期に作られた政府存続計画も破棄され、現在ではミシシッピ周辺をオートに睨ませているという始末。そのオートたちが回れ右をして西側へ攻撃するのではないか。西米はそう考えたうえで軍を先述の通り動かしたというわけだ。
ミシシッピだけではない。表向きは
人々に平等な富をもたらすオートロイドは一部地域では死を提供しております、という事実をブロードキャストは一切報道しない。ネットワークニュースを詳しく調べれば分かることではあるが、それを知ろうとする人間はこの分与主義圏にはほとんどいないだろう。
人は見たいものだけ見る、と誰かが言っていた。
「ん、私共?あなたは西米軍の関係者なのでしょうか」
「自己紹介が遅れました。私は
ピルキントン・パレンバーグ。三二歳、コーカサスやウクライナなどのロシア地域を中心とした紛争の戦力引き離しに参加。電子戦闘分遣隊は主に敵の電子施設への工作、オートロイドを用いた戦闘や対オートロイド戦闘を専門とした部隊。
「皆様の調査には私も同行いたします。万が一オートとの戦闘になったら一人でも多いほうが心強いでしょう」
「とてもありがたい。経歴を拝見させていただきましたが、実戦経験が豊富な方なのですね。我々は演習こそあれど本物の戦闘は未経験なものですから心強い限りだ」
嶋村が流暢な英語でパレンバーグへ賛辞の言葉を送っている。彼がバイリンガルであることを今回の出張で初めて知った。コルネアが彼の英語を正確に日本語で返しているが、やはり普段の声と比べると出力される合成音声はかなり違和感がある。
「間もなく他の行政府から派遣された対策機関の方々も到着するようです。我々が一番早かったらしいですね」
建物内部に入るとオーグレイヤ、オーグレイヤ、オーグレイヤ。そこら中がオーグレイヤまみれだった。ネットワークに公開されていた画像を見る限り、内部はアラベスクを模したような幾何学模様が投影されているはずだったが、壁は事件に関する文章が氾濫していた。
「すごい光景だな。写真でも撮っとくか」
志部谷がコルネアのフォトボタンを押す。網膜に投射された風景が世府から与えられた彼のパーソナルドライブに保存されたようだ。
「セッションは大体一時間後か。それまで各自資料のダウンロードを済ませておけよ。西米行政府のセキュリティクリアランスは既に通過させてある」
「了解です」
近くにあったターミナルへアクセスする。事件の情報は全てクリアランス最上位であるウルトラヴァイオレットに指定されていた。どうやら暴走したオートロイドのインストールアルゴリズムが片っ端から参考資料の中に突っ込んであるようで、サーバの使用領域がエクサバイトを超えていた。
僕はドキュメントとメディアファイルのみ選択してダウンロードを開始した。
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