寿司で泣いた少女

 少女との出会いは3ヵ月前になる。

 近隣住人から相談を受け、訪問を重ねる事、7回。

 ようやっと、少女と同居していた男性の行為を現行で確認出来た。


 我々が警察と踏み込んだ時、少女は床に新聞紙を敷いて眠っていた。


 幸いにも、深刻な状態ではなく、点滴補液によって、歩ける程度に回復。母親と同居男性が自認するまでこちらで、預かる事となった。


 「何か食べたいものはあるかい?」と尋ねると、少女は「おすし」と答えた。

 「お寿司が好きなの?」と同僚が訊くと

 「ハル君がよく作ってくれた」と答えた。


 ハル君とは上記の同居男性の事で、少女に『寿司』と言って、金魚の死骸をご飯に乗せて与えていた事が確認されている。


 目の前に現れた『本物の寿司』に、少女は不思議そうな表情を浮かべた。

 恐る恐る。一つ手に取り、齧る。

 「おいしい‼ 」慌てる様に、もう一口齧る。

 少女は栄養失調で、筋力が低下している為、握り寿司一つを片手で持てない。両手でまるでハンバーガーの様にそれを食べていた。

 一つ、食べ終ると、少女は手を止めた。


 「どうしたんだい?」少女は、尋ねた私の顔を見ると、困った様に言った。

 「ママと、ハル君にも食べてもらいたい。おいしい。」

 私の隣に居た同僚女性が堪らず、背を向け、声を殺して泣く。


 「いいんだよ。

 ママたちの分は、おじさんが向こうにちゃんと取ってあるから。」

 「ホント⁉ 」

 「本当だよ」

 「じゃあ、食べるね‼ 」

 少女は二つ目の寿司に手をつける。


 その時。


 「おいしい、おいしい」と言いながら。

 少女は涙を溢したのだ。



 おいしいかい?よかったね。

 でもね。

 美味しい物を食べる時はね。泣いちゃ駄目だ。


 笑うんだ。

 食べる幸福。

 美味しい幸福を。


 笑って、伝えるんだよ。

 自分に、人に。


 次。

 次にお寿司を食べる時は。


 君が心から笑って食べている事を。


 少女が泣きながら食べたその寿司を、私は一生忘れないだろう。

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