ジョセフの短編集

ジョセフ武園

第一回 寿司小説コンテスト 出品作

すしと君

 のう………

 のう! もう止せ、次男坊。これでもかとわらわを撫でるな、擦るな。頬擦るな。


 はは~ん、ピンときた。わらわ、ピンと来たぞ。

 異様に飯前にわらわに甘えてくるは………ずばり夕食は『寿司』じゃな!


 寿司。色とりどりの魚の切り身を雪原の如しシャリ飯に乗せた。魔性の食い物。

 マグロ、ヒラメ、アジ、ハマチ。無論、わらわも大好物じゃ。


 ふふふ、ほれ見た事か。やはり今晩は寿司じゃ。


 さぁ~~。わらわにもくれぇ~。

 ………な、何をするか。婿殿‼ よせ、足を引っ張るでない。

 

 ……わらわ、いつも、寿司の時は、皆の団欒の場から追い出される。そして、部屋の隅っこで高級缶詰を食わされる。奴らは、そんなわらわに、見向きもせずに寿司を頬張って、得も言われぬ笑みを浮かべておるわ。


 わははは。と団欒しよる家族を横目で睨んでやるわい。くそ、わらわをどなたと心得る。それはそれは、高潔な血統ぞよ。


 しかし、わらわ諦めぬ。寿司の時は、何度も其方らに挑もうぞ。この腹に一杯寿司を放るその日まで‼


●●●


 あれから、幾度の季節が過ぎたかのう。結局、わらわの悲願は叶わなんだ。


 そして、わらわも年をとった。この頃は、身体が上手く動かん。いや、それよりも、もう皆がこの家に集まって寿司を食う事も無くなった。

 最後に、叫んでみるか。頼んでみるか‼ ダメもとで。

 「にゃあ~~~~」

 

 わらわの鳴声に、家族がぞろぞろと集まりおったわ。

 皆が皆、心配そうにわらわを撫でよる。


 違う違う。寿司じゃ。寿司が食いたいと鳴いたのじゃ。


 ………まぁ。よいか。

 最後の最後まで。駄目なご主人様達じゃて…………

 でも、これも………


 そう、悪うないのぉ………

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