第5話

 監視室のカメラを凝視しながら、カッコウとヒキガエルはぼうぜんとしていた。


「……落ちたべ。まずくね?」

「あー」


 エントランスホールでの光景を目にした二人は、サーバルとの接触を避けて、機会をうかがうことにした。

 この監視室からは、城の中の大部分を覗き見することができる。

 隙を見て――昼寝でもした時にでも取り押さえればよいという、それは消極的な作戦であった。

 観察の結果、一階のどの場所でも、サーバルは奇声を上げながら棒を振り回していた。

 こいつは、マジでぱない相手だ。

 機会をうかがいすぎているうちに、サーバルたちはセルリアンに襲われて、階段の大穴に落ちてしまったのである。


「ドラゴン様に、どう報告するべ?」

「そりゃあ、正直に……」


 絶対に怒られると、二人は思った。

 命令は、侵入者たちを捕まえること。

 コモドドラゴン自ら、真の恐怖を教えるために。

 器が大きく、めったなことでは怒らない主ではあるが、こういったことに対しては、別人のように厳しかったりする。


「オラたちも、行くべか?」

「んだな」


 セルリアンは怖いが、カッコウがヒキガエルを抱えながら飛んで移動すれば、そう簡単に捕まることはないだろう。

 重いため息をつきながら、二人はとぼとぼと監視室をあとにした。






 ――バシャン!

 穴の底には、水が溜まっていた。

 かばんとサーバルはお尻から水に使ってしまう。

 だが幸いなことに、深さはそれほどでもなかった。

 かばんはすぐに立ち上がることができたが、


「ぎみゃーっ!」


 サーバルは飛び上がった。


「水っ、水っ、水っ!」


 まるでお湯の中にでも足をつけたかのように、ざぶんざぶんと飛び跳ねる。


「あの、サーバルちゃん?」

「水、きらいーっ」

「え?」


 最後にはかばんにとびかかって、ぎゅっとしがみつく。


「うわあああぁ」


 勢いを受け止めることができず、二人はそのまま水の中に倒れこんでしまった。


「ううっ……」

「サーバルちゃん、だいじょうぶ?」

「くさいよー、どろどろで、ぐしゃぐしゃだよぅ」


 どうやらサーバルは水が苦手なようだ。

 水を飲むのは好きだが、身体が濡れるのは嫌いらしい。


「ぬるぬるで、気持ちわるいよぅ」


 今はどういうわけか、かばんがサーバルを肩車する体勢になっていた。


「ここは、どこだろう?」


 かばんは周囲を見渡した。

 穴の開いた天井から、わずかに光が差し込んでいる。

 暗くてよく分からないが、どうやらトンネルのようだ。

 膝の上まである水は、黒くにごっていた。

 ……生臭い。


「ラッキーさん、ここは?」

「アドダグジョンエリアがら、ばだれだぼうだデ」


 足元から、ぶくぶくと空気が漏れている。


「ああ、ラッキーさんが溺れてる!」


 かばんは慌ててボスを抱きかかえた。

 幸いなことに、セルリアンたちは追ってこないようだ。

 ここで立ち止まっているわけにはいかない。かばんは、トンネルの先に進むことにした。

 サーバルを肩に、そしてボスを胸に、そして電池が入った鞄を背中に担いでいるので、足取りは重い。

 しかも膝まである水は歩きにくい。

 苦労して少しずつ進んでいくと、天井からの光が届かなくなり、真っ暗になる。


「ごめんね、かばんちゃん」

「気に、しないで。いつも、助けてもらってるんだから。これくらい……」


 それでも、十分ほどで限界がきた。

 もはや一歩も歩けないでいるかばんの様子を見て、サーバルが意を決したように水の中に飛び降りた。


「サ、サーバルちゃん」

「ううっ」


 身体をぶるりと震わせて、サーバルは歯を食いしばった。


「だ、だいじょうぶ! こんなぬるぬる、平気だから!」


 暗闇で表情はうかがえないが、かなり無理をしているようだ。


「さ、はやく行こっ。わたし、暗闇でも見えるか……ら」


 無理やりな笑顔で指差したトンネルの先に、わずかな明かりが見えた。

 青白い光を放っており、ゆらゆらと近づいてくる。

 キーコ、キーコ。

 それは、とても不気味な光景だった。


「な、なにあれ? こちに来るよー」

「お、お化け……」


 恐怖で顔を引きつらせながら、身を寄せ合う二人。

 その光――LEDランタンを持って歩いてきたのは、丸い耳と長いしっぽを持つ、小柄なフレンズだった。


「おめさんたち、どっから来たずらか?」

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