第4話

「……なに? 我が城に、侵入者だと?」


 玉座に腰をかけ、頬杖をつきながら、コモドドラゴンは言った。

 片手にはガラス製のワイングラスを持っている。

 

「はっ、さようでございます。ドラゴン様」

「かんしかめら、を見ておりましたところ、フレンズが二人と、ラッキービーストが一体、入口から普通に入ってきました」


 玉座の正面、一段低いところには、カッコウとヒキガエルがいた。

 片手と肩膝を床に着いた状態で、かしこまっている。


「何のフレンズだ?」

「はっ、ひとりはサバンナ地方に住んでいる、サーバルかと」


 カッコウが答える。


「ドジでまぬけの、サーバルです」


 ヒキガエルが補足説明する。


「ふむ。もうひとりは?」


 カッコウとヒキガエルが顔を見合わせ、恐縮する。


「まあ、よいわ」


 コモドドラゴンは、手にしていたワイングラスで水を飲むと、くはーと息をついた。


「おおかた、この城にあるという財宝の噂を聞きつけたのだろうが。馬鹿なやつらだ」


 まだ見ぬ相手を、ぎろりと睨みつける。


「ドブネズミの、二の舞ぞ!」


 カッコウとヒキガエルが、恐れおののくように身を震わせた。


「よいか、侵入者をすぐに捕らえるのだ。我が直々に、本当の恐怖というものを教えてくれるわ」

「カコッ」

「ゲコッ」

「では、ゆけ!」


 コモドドラゴンがばっと手を振ると、カッコウとヒキガエルは弾かれたように立ち上がる。そのまま駆け足で、“王座の間”を飛び出した。

 廊下に出てから歩をゆるめて、ようやく力を抜く。


「……ふう。相変わらず、ドラゴン様はものすごい威圧感だべ」

「んだな。けども、サーバルはすばしっこいぞ? オラたちだけで、捕まえられるのけ?」

「やらねば、ドブと同じになるだけだぁ」

「んだなぁ」


 己に課せられた任務の重さを感じながら、カッコウとヒキガエルはとぼとぼとエントランスへと歩いていく。

 彼女たちがいるのは、アニマキャッスルの三階。

 ただ、エントランスは吹き抜けになっており、一階を覗き込むことができる。


「よっと」


 ヒキガエルがジャンプして、手すりの上に飛び乗る。

 カッコウは羽根を使って空中に浮いた。


「……」


 そこで彼女たちが見たものは、


「あははははっ!」

「いーっひっひ!」

「みゃみゃみゃ!」

「たーのしーっ!」


 奇声を上げながらエントランス中を跳ね回り、何もない空間に棒を振り回している、猫型フレンズの姿であった。


「……ぱねー」


 カッコウの感想に、ヒキガエルが「ゲコッ」と同意した。






『すごいの、勇者。これまでの最高記録なの』

「え~、ほんとう? やったぁ!」


 ガイドベルがサーバルの活躍を褒め称える。


「すごいよ、サーバルちゃん」


 かばんも感心した。


「あんなにたくさんの魔物を、ひとりでやっつけちゃうなんて」

「え~、うにゃぁ」


 普段、仲間たちから馬鹿にされることが多くて、あまり褒められた経験のないサーバルは、照れたように頭の上の耳を撫でまくった。

 もっとも、かばんのバイザーを通して映ったのは、マウンテンゴリラがモヒカンをこすりながら内股でもじもじしている、何ともいたたまれない姿だったが。


『これで“エントランスステージ”は、クリアなの。右側の扉から、先に進むの』


 ガイドベルの案内に従い城の奥に進むたびに、新たな魔物が現れて、かばんとサーバルに襲いかかってくる。

 だが、素早く身の軽いサーバルは、最短時間ですべての魔物たちを倒していく。

 セルリアンと違って、どこを叩いてもよい。

 力もいらない。

 空中を飛び回る魔物もいたが、そもそも空中戦はサーバルが得意としているところでもある。

 つまりは、相性がよかったのだろう。

 

『ここは“階段の間”。二階に行くことができるの』


 そこは細長い円柱形の部屋だった。

 壁に沿うように、らせん状に階段が配置されている。

 ただ、経年劣化のためか、中央の床がすこんと抜け落ちていた。

 好奇心旺盛なサーバルが、穴を覗き込む。

 

「うわー、深そー」


 一方のかばんは、上を見上げた。

 二階の天井には、大きなシャンデリアが吊るされている。

 その影から、再び魔物たちが現れた。


「サーバルちゃん、穴があるから気をつけて」

「だいじょうぶ。まかせてー」


 コウモリの姿を模した魔物たちを、サーバルは次々と打ち落としていく。

  

「あははー、あはははーっ!」


 調子に乗りまくっていたサーバルだったが、


「これで最後だー」


 ――ぽむ。

 ライトセイバーが軽々と弾き返された。

 

「あれー?」

「サ、サーバルちゃん。それ、魔物じゃないよ!」


 弾力のある水色で、大きな目がひとつ。

 魔物の中に紛れ込んでいたのは、セルリアンだった。

 

「わ、わっ、わっ!」


 フレンズたちの天敵である。

 爪を使った戦い方を忘れていたサーバルは、ライトセイバーを振り回すものの、まったく効果はない。もともとこの棒は、軽くて柔らかいのだ。

 セルリアンは一体だけではなかった。

 二体、三体と、どこからともなく増えてくる。


「に、逃げよう、サーバルちゃん」

「ど、どこに?」

「階段の上!」


 かばんとサーバル、そして終始無言のボスは、階段を駆け上がる。

 しかし、


「うわー、上からもきたー!」


 二階の扉から、大量のセルリアンが迫ってきた。

 

「ど、どうしよう、かばんちゃん!」

「えっと、その……」


 大混乱におちいっているサーバルよりも、かばんは少しだけ冷静だった。

 周囲を見渡し、唯一の助かる道を見つけ出す。


「あそこ!」

「え?」

「ほら、天井からぶら下がってるやつ。あそこまでジャンプして!」


 巨大なシャンデリアだ。

 かばんはサーバルにしがみついた。


「わかったよ、かばんちゃん。みゃー!」


 かばんを抱えたまま、サーバルは素晴らしい跳躍力をみせた。

 だが、そのジャンプは高すぎた。

 勢いよく着地した衝撃で、シャンデリアが大きく揺れて、もともと錆ついていた金具が破損する。


「うわー!」

「うみゃー」


 かばんとサーバル、そしてボスは、深い穴の底へと落ちていった。

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