第43話
「違和感?」
聞き返すが、まだ判然とせず、そのせいで悩んでいるらしい。首を横に振って、口惜しそうにまたうんうん唸る。
「勇者様はどうなんですかー」
自分の作戦が無視されたせいか、妖精が不満そうに目の前まで降りてきた。むーっと口を尖らせた顔を突きつけられて、達真は気圧されたように身体を引いた。
「一応、あるにはあるんだが」
「どんなものですか? わたしがあっさり否定してあげますよ」
やはり根に持っているらしいが、続ける。
「俺の攻撃は異世界になら届くんだ。だから、魔王をどうにか異世界に送り返せば、そこを攻撃できると思うんだが……」
「へー? それで、どうやって魔王を送り返すんですか~? お? お?」
挑発してくる妖精の首を軽くねじって。
それで静かになったのを確認したから、というわけではないだろうが――代わりに口を開いたのは千聡だった。
何かに気付いたように、それでも半信半疑のように。
「魔王は、自分には最初から魔力があったとか言ってたわよね? それじゃあ……達真の力っていうのは、なんなの?」
「なんなのって、俺に聞かれても困るけど」
鼻の頭をかきながら、妖精の方を見やる。地面に落ちて痙攣している。もっともそうでなくとも、妖精は答えられないだろうが。
しかし千聡自身、そもそも解答は求めていないようだった。構わずに続けてくる。
「もしも達真が使っているのも魔力だとしたら。どうして達真だけは、世界を超える時にしか効果が出ないのか。地球で技を使った時には何もないけど、それが世界を超える時にだけ、急に魔力が生まれる?」
今度は、誰に答えられるより先に自ら首を横に振る。
「魔力って、たぶんそんなものじゃないでしょ。それに達真は、地球で馬鹿みたいに棒を振り回してるだけなのよ」
「馬鹿みたいとか言うな」
「世界を超えるって何? 誰が、どう判定してるの? いえ、そもそも”世界を超える”ってこと自体がおかしいのよ」
半眼の達真は無視してまくし立て、彼女は険しい目付きで指を立てた。
「つまり――」
廃工場のシャッターが爆発したのは、その時だった。
がしゃんっ! と、ひしゃげて弾ける不快なアルミの音が響き、鋭い砕片が達真たちの足元まで飛んでくる。
全員が一斉に、閉じるもののなくなった入り口を見やった。
そこにいたのはまさか連合軍などではあるまい。たったひとり。黒い姿の魔王だった。
「見つけたぞ、愚かな人間ども」
アビスロードは尊大に喉を震わせると、口の端を吊り上げた。
「くくく、よく考えたら妖精の魔力を辿ればいいだけだった。これでお前たちは、もはや隠れることもできん!」
腕を振り、ばさりとマントを翻す。
いまいち決まりきらない気配ではあるが、それでも追い詰められてしまったことは間違いなかった。魔王はマントを払った腕を、今度はゆっくりとこちらへ突き出してくる。
「無駄な抵抗も、これまでだな」
工場は広く、避けるだけのスペースはある。残された機械の残骸で、逃げて隠れることはできずとも、隠れながら戦うことはできるだろう。
ただ、それはやはり無駄な抵抗だった。勝機がない。何度かの魔法を避けることができたとしても、それでどうなるわけではない。粘ってもいずれ、敗北する。
楓が一歩前に進み出て、達真はその後ろで歯噛みしていた。
じわじわとだが、感じるのは絶望だった。あるいは死の臭いか。そんなものを敏感に感じ取れるほど、戦いに身を置いていたわけではないが。
「達真――」
ふと。耳元で囁かれた。
振り向こうとするが、彼女自身がそれを止める。達真は正面にいる、勝利を確信して笑う魔王を見据えたまま、その声を聞くことになった。幼馴染の、千聡の声。
恐怖に震えてなどいなかった。むしろ、正反対に――
「聞いて。私に一つ、作戦があるの」
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