第42話
「ははははは! 逃げ惑うがいい!」
先ほどと全く逆の構図で、達真たちが追いかけられる。
アビスロードは今までの鬱憤を晴らすように、そして己の力を誇示するように、無闇に魔法を連発していた。
炎が踊り、氷が爆ぜて、衝撃波が襲い、槍が降る。結果、当然として町の各所が破壊され、混乱が巻き起こった。警察や消防、救急のサイレンが鳴り響き、怒号や泣き声が至るところで上がる。
追いかけられた時のことを根に持っているのか、アビスロードは時々、石やらゴミやらも投げてきたが。
達真たちはそうした破壊と混乱と嫌がらせを背に受けながら、必死に逃げ回った。
今のところ、どの魔法も、投擲物も直撃していない。上手く避けているというより、アビスロードの方があえて外し、恐怖を煽っているようでもあったが。
「このままじゃまずい! どこかに逃げ込むぞ!」
言ったのは達真である。
すぐに後ろから、「どこに逃げ込むっていうのよ!?」という千聡の声が聞こえてくる。
アビスロードは現在、塀の高さ程度まで浮き上がりながら、滑るようにこちらを追いかけてきていた。恐らくもっと速度を上げることもできるのだろうが、やはり恐怖を煽るためか。わざわざこちらと一定の距離を空け、等速でついてきている。
達真はその憎らしい敵に振り返ろうとして、直後に顔の横を火球が飛んでいくのを見て、やめた。
頬に危険な熱を感じながら、千聡の問いに答える。
「当てを思いついたから言ったんだ。こっちだ!」
告げると一番近くの角を曲がり――目指したのは町の北部だった。
背の高い建物、工場の並ぶ区域だ。
もちろんそこで破壊的な魔法を使われれば酷い災害になってしまうが、どこで使われても酷い災害なのだから、実際のところそれほど大きな差もないだろう。今ですら、町大混乱に見舞われている。
達真たちは工場地帯に入り込むと、その建物に隠れるようにして逃げ回った。相手は飛んでいるようだが、地の利は失っていない。
案の定、アビスロードは達真たちを見失ったらしく、一時的に攻撃が止まった。振り返っても魔王の姿は見えない。
「余裕を気取ってる魔王のことだ。一気にこの辺一帯を破壊する、なんてこともしないだろう。そんなことをしたら、俺たちの怯える姿が見られなくなる」
後付で閃いたものだったが、あながち間違いでもなかったらしい。どこか遠くから「怯えて隠れ潜むなど惨めだな、勇者ども!」と嘲る声が聞こえてきた。
その間に、達真たちが実際に隠れ潜んだのは――『連合軍』がアジトとしていた廃工場だった。確実に人のいない建物としては、ここが最もわかりやすかったためだ。『連合軍』はまだ活動を再開していない。
「ひとまず、逃げられたな」
「って、逃げたのはいいですけど……どうするんですか?」
「決まってる。反撃の手を考えるんだ」
聞いてくる妖精に、即答する。が、彼女は口を尖らせた。
「だから、それをどうするかって聞いてるんじゃないですか」
「それを今から話し合おうって話だ」
ひしゃげたシャッターの隙間から外を見回し、そこにまだ魔王がいないことを確認する。
廃工場の中は相変わらずで、いくつかの取り残された機械は隠れ場所にできるかもしれない。投棄された工具は投擲武器くらいにはなるだろう。
ただ、どちらにせよそれを使った魔王撃滅法は思い付かなかった。
「あ、こういうのはどうですか?」
挙手してきたのは、妖精。
「まず、わたしが異世界に逃げるんです。それで新たな勇者様を探し出す間に、勇者様たちが魔王を倒すなり、魔王にやられるなり」
「楓、何か思い付かないか?」
妖精は無視して、楓の方を向く。彼女は意外にも、考える間を作らず即答してきた。
「まず、オレが魔王に突撃する。そして肉弾戦を行い、倒す。それから達真がやって来て、共に勝利を噛み締める」
「……千聡、お前だけが頼りだ」
楓は「何がいけなかったのだろうか」と首をひねっていたが、ともかく。
千聡は走り回ったせいで息を荒げながらも、それよりも気になることがあるのか、口元に手を当てて、なにやら難しく眉をひそめて呻いていた。
「ちょっと……何か違和感があるのよね、ずっと」
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