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第26話

■5

 魔王失踪の報せは、瞬く間にフォーラング国全土へと広まっていった。

 それが吉報としてか凶報としてかは、聞く者によって異なっただろう。あるいは誰しもにとって、その中間だったとも言える。

 最も楽観的な者には、それがそのまま魔王消滅の報となった。最も悲観的な者に言わせれば、これが魔王の策であり、間もなく世界が滅ぶのだという。

 フォーラング国としての意向は、そのどちらでもない。魔王失踪は魔物の意気を大きく挫いており、ただでさえ勢いづいていた王国軍の領土奪還作戦を後押しするものに違いなかったが、魔王がそのまま永久に失踪を続けることもないのは明白だった。

 なんらかの策なのか、あるいは危機を悟った一時的な避難なのか、別の国を侵略するつもりか、はたまたさらにもっと別の何かなのか。様々な憶測は国の有識者の中でも意見が分かれたが、いずれにしても真っ先に行われたのは、魔王の捜索である。

 元々、魔王は国の中央にある丘の上に居城を構えていたようだったが、当然そこは蛻の殻。今は他に有力な隠れ場所がないかの見当付けと、その場所の捜索が急がれているという状況らしい。

 ――そんな話を、妖精は面倒臭そうに告げてきたのだが。

「要するに、しばらく勇者様はなんにもやることがないです」

「おかげで最近は平和な高校生活だな」

 いつもと同じ、ひと気のない住宅街を歩きながら、達真はあくびの間に答えた。

 妖精がいるため、完全に元通りの生活というわけではないが、平和は平和だった。今もこうして、朝の平和な登校ができている。

 校長に関しては妖精が直接出向き、「あなたが見たものは全て夢です」と説得したら解決した。それから三日ほど、校長は休みを取ったが。

「でもこの平和って、いいことなのか悪いことなのかわからないわね」

 隣を歩く幼馴染に言われて、達真はぼんやりと「まあな」と答えながら空を見上げた。

 そこに異世界の風景が見えるわけでもないが、妖精はひらひらと軽薄そうに飛んでいる。

「ま、今のうちに新しい必殺技でも考えておいてください。対魔王用の」

「頼んだぞ、千聡」

「やっぱり私なの!?」

 肩を掴むと、彼女は困窮したような顔を見せた。

「流石にそろそろ恥ずかしい気がしてきたんだけど……」

「俺も恥ずかしいって。でも、千聡だから言うんだ」

「こ、こんなところで言うなんて、ずるいわよ……」

「さあ、聞かせてくれ。千聡の恥ずかしい言葉を」

「達真にだけ、だからね……?」

 千聡は照れ臭そうに目を逸らすと、ほんのりと頬を赤らめた。

 その横で、妖精が果てしなくイラついた顔を見せていたが。

「なんで無駄に卑猥っぽく会話するんですか、鬱陶しい――」

 しかし、そう文句を言った直後。

 彼女はなぜか唐突に急旋回し、石塀の向こうへと飛んでいった。

 何事かと達真がそれを目で追おうとする――が、それは叶わなかった。途中で呼び止められ、振り向かざるを得なくなったのだ。

「見つけたぞ、てめえ!」

 男の声に聞き覚えがあったかと言われれば、微妙なところだった。あるような、ないような。ただ背後に現れた彼らの姿を見た時、それにはハッキリと見覚えがあった。

 派手なコートのような上着――要するに特効服を着込んだ集団。以前に廃工場で遭遇した、なんとか連合軍だ。

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