第19話

「…………」

 沈黙は長く続いた。

 それは紛れもなく驚愕だった。

 以前にもあった。玉座から立ち上がることのない驚愕。

 今もまた玉座に腰を下ろしたまま。

 ただし違う。立ち上がらないのは、まさしく驚愕がゆえ。

 信じがたかったのだ。今まで圧倒し、このままであれば完全に壊滅させるのも時間の問題だと思っていた人間たちに、こうまで容易く戦況をひっくり返されてしまったことが。

「たった……数日だ。十日と経っていない」

 暗黒に沈む邪悪は感情までをも黒く塗り潰しながら、潜めた声で周囲の大気を震わせた。

「僅かそれだけの時間で、我が四天王はたったひとりを残すだけとなった」

 信じがたい。

 最初はとうとう王国軍が、切り札である精鋭部隊を送り出してきたという程度に思っていた。それをひとり目の四天王に使わせたのは上出来だと。

 ふたり目の四天王が討ち果たされた時には、精鋭の力が予想以上であったことに面食らった。だが優位は揺るがない。その精鋭を討てば完全な勝利が得られる。そう考えた。

 しかし、さらに被害が拡大するとなれば、それはもはや異常なことだった。ただでさえ、ふたりの四天王を短期間に暗殺したというだけで狂っているのだ。それにも増して、今は警戒をかなり厳重なものへと強化したはずである。それをかいくぐれるほどの人間がいるというのか。

 そのあり得ない事態に混乱した魔物たちは、勢いを増す王国軍に撤退を余儀なくされている。もしもこのまま最後の四天王まで討たれることになれば、どうなるか……

「明らかに、不可解だ。どうなっているというのだ」

 邪悪は思考するたびに、感情が滲み出るのを抑えられなくなっていった。あるいは歯噛みする音でも混じるかもしれないとさえ思える。

 だが――

「ひとつ、よろしいでしょうか」

 それを阻止したのは、光の差さぬ暗黒に潜む、小さな闇だった。ここ最近は絶望の報を届けるばかりになっていた、闇。邪悪は八つ当たりのように、その闇をも憎らしく思うようになっていたが。

 しかしそれが言ってきたのは、今までとは違う言葉だった。

 希望、などというのは邪悪にとって皮肉でしかないが。

「実は……東の樹林を治める魔物から、興味深い報告がありまして」

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