第10話

「それでは、さっさとふたり目の四天王も倒しちゃいましょう!」

 言ってきたのは無論のこと、妖精だった。

 張り切る彼女の声を聞きながら、しかし達真は浮かない顔で。

「またやるのか、やっぱり……」

 ひとり目の四天王退治で受けた傷を癒すのに、一日という時間は短すぎた。達真はまだ完治しておらず、さらに言えば幼馴染の千聡などこの場に来ることもできていない。

 まあそれは女友達と遊びに行く予定があったせいだが。

「しかしそれも、傷が癒えていないことへの言い訳と取ることができないだろうか!」

「外傷なんか全く受けないじゃないですか。こっちの世界で棒を振るだけっていう卑怯極まりない攻撃方法なんですから」

「卑怯とか言うな。それに、心のダメージがでかいんだよ」

 住宅街の真ん中でいきなり必殺技を叫ばされるとなれば、もはや外傷の方がマシだとも言える。

「まあ、今日は住宅街よりはよさそうだけど……」

 と言いながら、見回す。

 町には北から南にかけて川が流れており、今いるのはその河原とまではいかなくとも、似たような場所ではあった――南端に位置する公園だ。

 広さはテニスコートが二つか三つ入る程度だろう。周りを常緑樹で囲み、地面には綺麗に刈り揃えられた芝生が敷き詰められているため、一面緑色に染まっている。

 設置されているのは滑り台、鉄棒、砂場、ジャングルジムなど、平凡としたものだ。凝ったデザインでもなく、見た目に面白いことは何もない。

 それでも休日の昼間であるため、子供の数はそれなりだった。いくつか置かれたベンチにはどこも、母親らしい姿が見える。

 もちろん今のところ、誰も公園の入り口にいる達真のことなど気にしていない。できればこのまま無視し続けてもらいたいが……

「さあ、行きましょう! 四天王はもうすぐそこですよ」

 妖精は一応、隠れるために達真の服の中へ入り込みながら、意気揚々とした声を発してくる。正反対に、達真は疲弊した様子で呟いた。

「できれば人目に付かない場所にいてほしいな」

「あ、大丈夫ですよ。今回はたぶん、誰にも見られません」

「そうなのか?」

 思いがけぬ希望を告げられ、きょとんとする。

 しかし同時に訝りもした。公園の中に、誰にも見られないような場所がない。

「木の上、とかか?」

「行ってみればわかりますよ。ほらほら、そのまま真っ直ぐです」

 わからないが、ともかく達真は「見られないならいいか」と多少気持ちを晴れさせながら、公園の中を横切っていった。

 もちろんその間も、一瞥はされても注目はされない。そして妖精の言葉が正しければ、このまま誰にも見つからぬまま、ひっそりと四天王を倒すことができるのだが。

 そんなことを思いながら、ひとり目の四天王との戦いを思い出した時。ふと、達真に疑問が浮かんだ。

「そういえば、四天王の居場所って随分と近いんだな。最初の居場所から、何キロも離れてないぞ」

 尋ねると妖精は「そりゃそうですよ」と当然のように答えてくる。

「地球と異世界が本当に重なり合っているわけではないですし、地球の一歩が異世界の一歩なわけではありませんから」

「そういうもんなのか?」

「刃だけがものすごく長いハサミでも想像してください。持ち手の部分を少し動かすだけでも、刃は何人もの人間を切断できますよね?」

「例えが下手だし猟奇的だよ!」

 と、まあそんな話をするうちに。

「ここです!」

 そう声を上げて、妖精は足を止めさせた。

「…………」

 そこで達真が発したのは――悲痛な沈黙だった。

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