二章:お届け場所の指定はできかねますので予めご了承ください。
第9話
■2
寝たきりのフォーラング王だが、寝たままでも思考はできる。顎はかなり動かしにいが、一応はまだ舌も動く。声は聞き取りにくくとも、喋ることもできる。
そんな、包帯をさらに分厚くさせた王は言うのだ。
ただし自分の身体をかなりボロボロにした勇者に対する不満でも、そんな自分を蹴り倒した妖精に対する憤慨でもない。
どちらかといえば前者に違いが、それは不満ではなく、疑問だった。
「勇者の力――確かに世界を救うものだ」
四天王のひとりを倒したという報告を受けた翌日、王は改めて妖精から経緯を聞いていた。勇者が地球で放った技は、異世界――つまり王が住むこの世界で発現する。
聞けば聞くほど便利であり、まさにフォーラングの国を救うためにあるような力だ。
「しかし、それはどういった原理なのだ? 妖精が言うには、異世界への転移で異能に目覚めるようなもの、などとわけのわからんことを言っていたが……何か大きな災いの予感がしてならん」
「確かにあの妖精が勇者を連れて来ると、必ず面倒なことになりますからね」
答えてきたのは、ベッドの傍らに膝を付く男だった。以前に四天王撃破を伝えたのと同じ伝令兵であり、今は自軍の戦果を報告したところだった。
微妙にフランクな態度は気になるが、さておき続けてくる。
「前任の勇者なんか、近所の大型犬に縄張り争いで負けるわ、かと思ったら小型犬に盛って飼い主の人に怒られるわ、知らない人が前の道を通るだけでワンワン吼えて近所からクレームが入るわと散々でしたし」
「あの妖精はもう魔物と呼んだ方がいいかもしれんな……まあ幸いにして、不幸になるのはたいてい勇者だけなのだが」
何人かの顛末を思い出して、王はかぶりを振った。実際には目と口以外は見えないほど包帯まみれで動けないため、雰囲気だけだが。
「しかし、こちらへ飛び火する可能性はある。用心に越したことはない。国中の学者を集め、勇者の力について調べさせるのだ!」
「はっ!」
平伏し、兵士が言う。
しかし彼が部屋を後にしようとする時、王はふとそれを呼び止めた。
「……ところで伝令兵よ。前任の勇者は今、どこにおるのだ?」
「先月、散歩中にうっかりリードを落とした隙に逃げられてしまいました」
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