G10「ラブいの⑧ 綺羅々」

 いつもの放課後。いつもの部室。

 京夜はちょっと落ち着かない感じで、部室内を見回していた。

 今日は、部活動に来ているのは、綺羅々さん一人……。

 定位置のソファーで、いつものように、ぱくぱくとお肉を食べている。

 綺羅々さんは不思議な人で、いつもなんらかのお肉を食べている。それは鶏の足だったりスペアリブだったり、なんだかよくわからない正体不明のお肉だったりする。

 とにかく、いつでも食べている人なのだ。

 今日のお肉は、オーソドックスに鶏の足。クリスマスに食べるやつ。綺羅々さんは毎週一回以上は食べているけど。

 綺羅々さんはソファーの上であぐらをかいている。女の子的には、ちょっとお行儀が悪いのかもしれないけれど、なんかワイルドでカッコいい。綺羅々さんからは、なんとなく〝野性〟を感じてしまう。大型肉食ネコ科の動物を連想する。ライオンじゃなくて、もう一つの縞々のほう……。

 何本目かを食べおわったところで、綺羅々さんは、鶏の足の入っている大袋を閉じた。

 ぺろりと、人差し指と親指を舐める。

 それからおもむろに、京夜に顔を向けてきた。

「キョロ――。」

「は、はい!」

 ちょっと見すぎていたかもしれない。怒られちゃうかも? ――と、一瞬思ったが。

 綺羅々さんは、そうではなくて――。

「たべたい?」

「ああ、いえ……、だいじょうぶですよ」

 部員の中で、綺羅々さんからお肉をもらえるのは、なんでか、京夜一人。

 部長なんかが「よこせ」と手を伸ばすと、べしりと撃墜されてしまう。野生動物ではお肉の横取りは厳禁である。――というのは、これは、紫音さんの弁。

 綺羅々さんは野生動物じゃないんだけど。

「そ。」

 綺羅々さんはちょっと残念そう。

 京夜はコタツから立ち上がった。部室の隅に出向いてゆく。

 恵ちゃんの紅茶基地を勝手に使わせてもらい、見よう見まねでお茶を淹れてみる。

 だけど……。

 いま部室に綺羅々さんしかいないのって、これ、やっぱりあれなんだろうなぁ……。

 部長からはじまり、紫音さん、恵ちゃん、綺羅々さん、と続くのが、GJ部の伝統である〝ローテーション〟というものである。

 なんだか最近、皆と順番に親密な感じになるイベントが発生している。なんでなのかはわからない。まあ部活動の一環なのだろうと納得しておくことにする。

「部長になんか言われました?」

 お茶を出しながら、そう聞いた。

「ん。キョロと。なかよく。する。」

「仲良くなら、いつもしてますよ」

 京夜はそう言うと、綺羅々さんは、首を横に振ってみせた。

「キョロ。ここくる。」

 自分の膝の上を示す。

 えー?

 自分は男子で、綺羅々さんは女子で、そーゆーの、どうなんですか? と、目線で訴えかけてみたのだが……。綺羅々さんは一切ブレることがなかった。

「すわる。」

「はい」

 おとなしく従うしかなく、京夜は綺羅々さんの膝の上に、ちょこんと腰を下ろした。

 綺羅々さんはすごく大柄だ。百八十センチを超える彼女の身長と、平均よりもやや小さめな京夜と、その体格差からすれば、普通の高校生のお姉さんが、小学生の男の子を抱っこしているぐらいになってしまう。

 つまり、非常に収まりがいい。

「ふん。ふん。」

 綺羅々さんの頭が、京夜のつむじの上に乗る。頭のにおいを嗅がれている。

 野性的なことと関係あるかどうかはわからないけど、綺羅々さんは、嗅覚がすごく鋭い。「あのー? 今日、体育あったから、汗くさいかと……」

「じっと。してる。」

「はい」

 京夜はじっとした。動かずに頭を嗅がれていた。

「さっかー。てん。いれた。」

「ああ。はい。シュートで一点――って! においでそこまでわかるんですか!?」

「うそ。みてたよ。まどから。」

 うう……。からかわれてる。愛でられている……。膝の上ポジションで……。

 これって、いつまで続くんですかー?

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