43「ラブいの⑤ 紫音。の品評会」

「ぷわー! メタなのきたー! それよかラブいのきたー!」

 部長がはしゃぐ。

「ああ、よかった。ちゃんとラブいのになってたんですね」

 ほっとする。〝ラブいのシリーズ〟の二本目――紫音さんの回を書き上げて、皆に品評してもらっているところだった。

「なんだよ? これわざとやってんじゃねーのか?」

「〝これ〟っていうのがどれなのかわかりませんけど。さっきエロいのはダメって言われたもんで、身体接触とか、だっことかは、封印してやってみんたですけど……」

 〝ラブい〟っていうのは、やっぱりよくわからなかったもので、とにかく〝普通〟を心掛けてみた。いつも通りのGJ部を描いたわけだけど……。

「うむ。ラブいな」

「ラブいですー。紫音さんぽんこつですー」

「しおん。しかばね。」

 綺羅々さんは、コタツに突っ伏している〝しおんさん〟の絵を、クレヨンで描いている。

 おお! イラストがついた!

「紫音ねーさん? SUICA使えないですか?」

「うん? こちらの私は、もちろん使えるとも」

「あっ――こいつ、こいつ、中学生の時サー!」

「――真央。それをバラすなら、私も対抗措置として、君の中学生時代のアレをバラす用意があるけれど?」

「――あっ! なんでもない! なんでもないヨ!」

「なんですか? それ? 気になります」

「うん。ではキョロ君。キミの〝恥ずかしい秘密〟と引き換えに教えてあげよう」

「えっ? 恥ずかしい秘密なんて……、な、ないですよ?」

「動揺したね? それはつまり動揺するほどの秘密というわけだね?」

「ああっ! わかりましたー。わかりましたー」

 恵ちゃんが、突如、手を叩いてそう言った。

「あのね? 恵ちゃん? 秘密なんて、特にないからね?」

「いえそうじゃなくてー。ちがうんです。ちがうんです。聞いてください。GJ部の紫音さんとー、KB部の紫音さんとでー、なにがちがうか、わたし、わかっちゃったんですー」

「えっ? なになに? どこどこ?」

 それは創作者としても、気になるところだった。

「GJ部だとー、紫音さんが受けでー、京夜君が攻めでー。そっちもアリなんですー」

「受け? 攻め?」

 ……はて? と、僕は首を傾げる。

 受けとか攻めとかって、どういう意味だったっけ。

「だけど、うちのKB部ですとー。京夜君は受け一辺倒なんですよー。リバなしで」

「リバ?」

「恵君の言っていることは、つまり、こうだね。関係性の強弱が――私がキョロ君をからかうという、いつもの関係性から逆転して、私がキョロ君にからかわれるようなことが、こちらのKB部では起きていない、と、そうした意味だよ」

「いやいやいや。無理ですって。僕が紫音さんをからかうとか。無理です無理です」

「君もGJ部の京夜君を見習ってだね。たまには強気にでてもいいんだよ? リバありで」

「無理です無理です無理です」

「やはりすこしくらいは弱点をみせたほうがいいのだろうか……」

「おま。ほんとは弱点だらけじゃん。隠すのが上手なだけじゃん」

「能ある鷹は弱点を隠すという」

「いわねーって」

「紫音ねーさんは、センパイにからかわれたいのですか?」

「からかわれたいというか、イジメられてみたい気がするね。あんなに人畜無害で草食系な彼が、世界のなかで、ただ私だけにイジワルをしてくるんだ。――どう? 素敵だと思わないかな?」

「あー、タマちょっとわかった気もするです」

「わかんなくていいから」

 僕は強引に話を終わらせた。

「もともとは、ラブいかどうかの話だったはずですけど」

「けっこーラブかったな」

「私は主観が混じってしまうけれど、なかなかだったね」

「ラブいですー」

「らぶ。らぶ。」

「タマもこれ、くすぐったくなる度、高いと思うです。アンコに見せていいですか? アンコ、こーゆー、くすぐったい話、好きなんです」

 アンコちゃんて誰だっけ? タマの話はすぐに飛躍するのでついていけない。

 それより、次を書かないとー。

 次は……。恵ちゃんの番。

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