39「海賊と原始人の批評」

「うえあおえあう!」

 開口一番、部長がそんな奇声をあげた。

「どうしました? 部長?」

「い、いや……、なんでもない。叫びたかっただけだ。しっかし、おまえ……、モテモテ主人公の話書くの、好きだわな」

「え? どこかモテてますか?」

「イヤ、だってコレ……。あきらかに……。ま、わかんねーなら、いいケド」

「この話は常識ギャップといいますか。はじまり人間のキョロ君がかなりの天然だったというネタでして。彼の境遇を考えてたんですよ。まわりみんな女の子ばかりで。ずっと同じ部族でやってきて。そしたら男女の違いとか、わかんないだろうし、気にもしていないんじゃないかなー――って、そう思いつきまして。それを形にしてみたら、こうなった次第でして」

「ん。そこはよく出来てた。驚きがあったぞ。3ナルホドあるいは3ガッテンあったぞ」

「うわーい。ほめられたー」

「だからおま、そーゆーところがだな……。ま、いーケド」

「そういうところ? え? いまなんかありました?」

 部長がぷいっと赤い耳をこちらに向けて、そっぽを向いているので、読み終わったばかりの紫音さんに聞く。

「ふふふ。どのへんが萌えポイントだったのかは教えてあげないよ。乙女の機密さ」

「はぁ……?」

「アト、海賊の話のほうも、何気にラブかったし……。なんなの? おまえ? 最近、ラブいのがマイブームにでもなってんの?」

「え? え? え? あっちって、どこがラブかったですか?」

「タマですよう。タマがセンパイにラブラブになってますよう。捏造カンベンです」

「え? え? え? だからどこが?」

 僕はタマに顔を向けた。

「だからえっとね? タマね? あの話っていうのは、船長がウブいっていうことと、エルマーさんがマジ天使だっていう話であって――」

「言ってろ。言うのは自由だ。そして我々読者がどんな感想を持つのかも自由だ」

「キャラが動いたとおりに僕は書いているだけですから。僕に罪はないんですよ。僕は単なる自動筆記マシーンですから」

「なんかキョロが小説家っぽいこと言ったーっ!!」

「小説家ですから」

「キリっとしたカオでカッコいいこと言ったーっ!!」

「センパイ。ポテチくれたら、それで水に流してあげます」

「ポテチなら普段からいつもたかられているけどね」

 カバンからポテチを取り出す。そろそろ恵ちゃんのお茶ができるし、お茶請けは必要だ。

 ポテチの袋を開けてあげるあいだも、タマは目をキラキラさせていた。自分で袋を開けることもしないんだもんなー。

「はい。タマ」

「うわーい。ポテチですー♡」

「現実のおまえも、相当ラブだがな」

 部長がぼそっと言う。

「もう部長。さっきからそればっかり」

「よし。話の中の連中は、現実のオレらとは別な。そういうコトにいま決まった」

「……? よくわかりませんが。まあ僕がそれで無罪になるなら、どうでもいいです」

「ところでおまえ、じつはラブいの書く才能あるんじゃねえか?」

「ラブいのって……、ラブコメとかですか?」

「べつにコメディ要素は、入らなくてもいいんじゃね? 普通に恋愛するやつだよ」

「少女マンガみたいなやつですか? 僕、あんまり、くわしくないんですよね」

「純愛系は向いてるどうかわかんけーねーけど。初々しい感じのスラップスティックなら、かなりイケると見たぞ」

 ラブいのと言われて、「ラブコメ」が真っ先に思いついたくらいだ。ラブい系にいくつも種類があるなんて知らなかった。

「いやー、無理ですよー。よく知りもしないんですしー」

「無理かどうかは、我々読者が判断する。わたしの見立てによれば、おまえは素でやっていさえすれば、たぶんラブいのになるハズだ」

「いやほんと才能ないですから。ていうか。部長たちがラブいとか言ってたあれだって、僕が書こうとしていたのは、それぞれ、ウブい船長とマジ天使と、常識ギャップだったわけですし」

「ウブいゆーな」

「キャラと現実は分けるっていう話に、さっきなりませんでしたか?」

 なんか変な方向に話がいっちゃったけど、まあ、今回の新シリーズは好調なようでよかった。定番のGJ部のほかに、二シリーズほどネタが増えた。

 またこんど、そのうち、つづきも書いてみようかな……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る