H03「増やしましょうよ②」

 食べかけの破片が振ってくる。ぺちぺちと、顔にあたる。

「うわっ。――族長! なんですか! ばっちいなぁー、もうー!」

「お、お、お――おまえが変なコト言うからだっ!!」

「変なこと……? なんか変なこと、言いましたっけ? 僕?」

「言いましたっけ? ――じゃねえっ!! おま――! おま――!! さっきなんつった!?」

「え? 部族の人数を増やしましょう――って、言いましたけど? なんか変ですか?」

「おほん。……キョロ君。つかぬことを聞くのだけれど」

 シオーンさんが、咳払いとともに、そう聞いてくる。

「はい。なんでしょう?」

「その〝増やす方法〟に関して、具体的なことは? なにか知っているかな?」

「ええっ? 知りませんよー。でも族長に言えばなんとかなるかなーって。ねえ、族長? 増やしてくださいよー。族長なんですからー。おねがいしますよー」

「お、お願いされたって……、そ、そんなん……相手がいないことにはっ!」

「え? 相手? 相手が必要なんですか? じゃあシオーンさんとで」

「ふふふふふ。……キョロ君。女同士では無理なんだ。それは」

「おんな? ……って、それ、なんですか?」

「おま!! そこからかよ!?」

 族長が愕然としている。

 あれれ? なんか変なこと、言っちゃったかな?

「あのな。まずな。ニンゲンには、男と女とがあってだな」

「へー。二種類あるんですかー。知りませんでした」

「その男と女とが、一セット、必要なワケ! ミニのニンゲンをこしらえるには、とにかく一組がゼッタイ必要なのッ!!」

 族長は目をつぶって、大声で叫ぶ。

「はあ。なんだかよくわかりませんけど、なんとなくわかりました。じゃあ、その一セットあるいは一組で、ミニのニンゲン、作ってくださいよー。増やしましょうよー。シオーンさんとじゃ、その〝オンナ同士〟とかいう理由でだめなんでしたら、キララさんとでも、メグミンとでも、タマとでも、誰とでもいいですよー。おねがいしますよー」

「みんな女だろ! 見てみろよ!」

 言われて見てみる。

 えーっ? そうなんだー? みんな、その〝オンナ〟とかいうのなんだ。でもどうして〝オンナ〟ということがわかるのだろう?

「それって、どうやって見分ければいいんです?」

「たとえばほら端的に言うと! おっぱいあるのが女っ!!」

「おっぱ……? なんです? それ?」

「ムネが出てんだろ! それだよそれ!」

「胸……?」

 はて? そんなこと……、いままで気にしたこともなかったけど。

 言われてみれば、たしかにみんな、胸のところが出っぱっている。

「でも族長は出っぱってないですよ。あ。じゃあ族長はその〝オトコ〟ってほうですね」

「おまえはいま言ってはならないコトを言ったーっ!!」

 石オノをぶんぶん振り回して、族長は枝の上から飛びかかってきた。

「わーっ!! わーっ! あぶない! あぶないですって! やめましょう! なんかしりませんけど! ごめんなさい! 許してください!」

 怒った族長に〝お肉〟にされかけてしまった。あぶなかった。なんとか許してもらえた。

 ふーっ、ふーっ、と、気の立っている族長を引き離して、シオーンさんが困った顔を向けてくる。

「いずれ我々はその問題に突き当たるとは思っていたけれど。まさかキミがその引き金を引いてしまうとはね」

「なんだかすいません」

「うちの部族にいる男性は、キョロ君、キミだけなんだ。その意味がわかるかい?」

「え? 僕が〝オトコ〟とかいうのだったんですか? ああ――じゃあ、簡単じゃないですか。僕とみなさんで――みんな、〝オンナ〟とかいうのなんですよね? それで作ればいいじゃないですか。ミニのニンゲン。そして部族をもっと大きくしましょう。人でいっぱいにしましょう。大勢のほうがきっと楽しいですよ」

「ん? う、うん……」

 シオーンさんは、キレの悪い返事をして、ちら、と族長に目をやった。族長は、ぷいっとそっぽを向いてしまう。向こうを見ながら、そして言う。

「ま……。何年かしたらな」

「年、って、それなんなんですか?」

「暑くなって寒くなって、それが何回か繰り返してからな! あと――! おまえが一人でマンモー倒せるぐらいに強くなんねーと! ぜってー! ダメだかんな!」

「えー? それ永久にだめってことじゃないですかー」

「がんばるの! がんばれ!」

 マンモーを倒せるように、がんばることになった。

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