38「メタメタ」

「おー! メタだ! メタがきたぞ! メタのなかでメタの話をしてるから! これはもう、メタメタというべきだな!」

 部長が喜んでいる。

 いつもの放課後。いつものKB部の部室。

 今日書いたのは、GJ部の話。まえに紫音さんにしてもらった〝胡蝶【こちょう】の夢〟の話を、物語にしてGJ部風にアレンジしてみた。うまく書けているかどうか、わかってもらえるかどうか心配だったけど、ちっちゃい手を叩いてはしゃぐ部長を見るかぎり、好評だった模様。

「よろこんでもらえたようで、よかったです」

「しっかし……。なんだ不思議な気分だな」

「と、いいますと?」

「なんかこいつら、ほんとに生きてるみたいじゃん」

「えっ……」

 部長の言葉に、京夜は息を詰まらせた。

「たとえばあっちの部長さ、わたしさ――。自分のハンカチで、キョロ、おまえのヨダレを拭いてやっただろ」

「僕ではなくて、あちらの京夜ですが。はい。拭いてくれましたね」

「そのあとハンカチをすぐに隠したのはだな。そうしないと、おまえが〝洗濯して返します〟とか、そういうウザいことを言いだすからだ」

「あー、あー。なるほど、なるほどー。あそこそうだったんですねー。あー。なるほどー」

 僕は感心していた。

 キャラの行動の理由を説明してもらって、いま、納得している。

 書いているのは僕なのに。作者は僕なのに。その僕にも知らないことがあるなんて、不思議な体験だった。これが部長の言うところの「キャラが生きている」というやつだろうか。

「真央。そこについては、一つ確認したいのだが。それはキョロ君の唾液のついたハンカチを保存するためではなく?」

「シイ! おま! マニアックすぎ! ハウス!」

「ハウスをいただいてしまったよ」

「あっちのシイはウブなのに、なんでこっちのシイはこーなのかね。親友のおまえがこーだから、わたしもいろいろ吹きこまれて、破廉恥耐性がついちまった。汚されちまった」

「ふふふ。真央を汚したのは私であるわけだね」

 紫音さんは自分の肩を押さえて、長い髪の髪の毛先まで、ふるふると震わせている。

「あのー。そろそろR15になっちゃう感じなんでー。そのへんで抑えてもらえますか」

「なー? こっちのこいつ、あっちのあいつと、ちょっと違くね? ちょぴっと黒いっていうか、牙があるっていうか」

「うん。どちらのキョロ君も共に良いね。キョロ君に貴賎無しだよ」

「なんじゃそりゃ」

 部長は笑った後、もういちどノートに手を伸ばした。

「しかし、こうなってくると……。あっちの皆も、ほんとに生きているのかもな。……あれ? だとすると、ナニ? オレたちのほうがニセモノなわけ? オレたちって、夢の中の人物なわけ?」

「ああ。僕もそこで悩んだり怖くなったりしたんですけど。紫音さんの提唱するマルチバース解釈によれば、GJ部時空とKB部時空とは共存可能となります。どちらにも生きている僕たちがいて、どっちも本物となるわけです」

「ほー。それはいいな。その解釈。物語の登場人物にさせられたり、夢の中の人物にさせられたりしたら、ヤだもんな」

「ちなみに森さんはどっちも同一人物です」

「同一人物とかゆった!」

 部長が膝をばしばしと叩いている。大ウケしている。

「――して、その根拠は?」

「だってほら、このあいだ、初めて会ったとき、くるりんって一回転してくれたじゃないですか」

「ふむ。〝森さん回した事件〟だな」

「事件にしないでください。僕がなにもお願いしていないのに、〝こうでしたね〟――ってスカートで回ってくれたんですよ。あのあとで、僕の書いてるGJ部のほうでも、森さんは会うと〝くるりん〟と回ってくれることになりました。――なので同一人物なんです」

「なぜそうなるのかはまるでわからないのだが……。まー、大人のお姉さんには秘密の一つ二つあったっていいわな」

「あるかもですねー。森さんならー」

 恵ちゃんが言う。

「――森さん、前から絶対、超能力持ってると思ってましたー。すごい量のお仕事、一人で片付けてるんですよー。見てないときには分身してます。絶対です」

 恵ちゃんも超能力あると思うけどね。紅茶限定で。

 僕は口には出さず、心の中でそう思った。

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