G08「ラブいの② 真央」
「部長。はいこれとこれ。こっちの山は安全物ですから」
いつもの放課後。いつものGJ部の部室。
京夜はラノベとマンガを二つの山に仕分けた。
片方は危険物。そしてもう片方は安全物。部長のために「ちゅー」ないしはそれ以上に過激なシーンを含む作品を除外して、残りの本を「安全物」として選んだのだった。
「オイ。これ五巻と七巻が抜けてるんだけど」
「ああそれは危険物なので」
「だめだろ! 途中がないとか! 気になるだろ! 超ダメダメだろ!」
「でもその巻だけチューがあるんですよ。あまりエロい作家さんじゃないんですけど。なんでかその巻だけはサービスシーンが豊富で」
「サービスシーンゆーな! 私にとってはサービスじゃねえ!」
「世間一般的にはサービスってことになってるみたいですよ」
「こっちなんて! 最終巻だけないぞ! てかこれ! 私が楽しみにしてたやつ!」
「ああ。それはチュー以上です。禁書です」
「ち、チュー以上……って?」
部長が怖さ半分、好奇心半分、という顔で聞く。
「ずっと想いあってた二人なんですから。最終決戦の前に、その想いを確かめあって――」
「――うわーっ!! うわーっ!! うわーっ!!」
部長は大声をあげた。腕をぶんぶんと振りたくる。
あれ? 意味わかったんだ?
「なんかよくわかんないが! ヤバそうな感じがするっ!! そ――それはアウト!! アウトだーっ!!」
「ああ。やっぱりわかってなかったんですね。はい。アウトです。めっちゃアウトでした。ラノベで出していいの? ――ぐらいの勢いで。なのでこれは禁書――と」
「でも――でもっ!! 最終刊読まなかったら、これまでいったいなんのために読んできたんだ! 最終巻出るの、楽しみにしてたのに!」
「そういえば部長、これ僕が持ってくるたびに、すぐ読んでましたね」
「そうだ! 名案を思いついたぞ! アウトな場所を黒く塗りつぶそう!」
「いやですよ。読めなくなっちゃうじゃないですか。これ僕の本なんですから」
「じゃ――じゃあ! 糊づけして袋とじに――!」
「だめですって。元に戻らなくするのは、とにかく――めっ、です」
「キョロがイジワルするー」
「いじわるじゃないですよ。あたりまえのことですから」
GJ部の部室にある本棚は、皆が各自、自分のオススメの本を持ちこんできている。自分が面白いと思っている本を、皆が読んでくれると楽しい。
京夜自身も、普段は読まない少女マンガなんかを読んで、意外な方面を開拓したりしていた。ちなみに少女マンガは恵ちゃん担当。
「でも、でも……。そこの場面以外は……、面白かったんだろ?」
「ええ。すごく燃えましたね。盛りあがりました。さすが最終巻です」
「うう……。読みたい……」
「部長もそろそろ克服してはどうでしょうか。そうだ。ほら。特訓ですよ。部長の大好きな特訓です」
「やだ。特訓しない」
「じゃ、読めないですよ」
「読みたい」
部長は子供みたいに、ぼそっとつぶやく。
最終巻だけ読めないことが、相当ショックだったみたい。まあ……、わかるけど。
「おまえ、一緒に読んでくれる?」
「え? 一緒にですか?」
「わたし、読むから。……おまえ横にいて、ヤバイ場面になったら、教えろよ」
「ああ。はい。ベッドシーンが近づいてきたら教えればいいんですね」
「ベッドシーンゆーな!」
「意味、わかるんですか?」
「わかんないけど! ――なんかヤバそうな響きだっ!!」
部長、本当にこーゆーの苦手なんだなぁ。耳まで真っ赤にさせちゃっている。
「じ、じゃあ……読むぞっ」
部長はそう言うと、本を持って、京夜の上に座りにきた。
え? と思う間もなく、膝の上に座られてしまう。だっこする形になる。
部長が本を開く。うなじごしに、部長と同じページを見る。部長がみじろぎをすると、小さなお尻が、京夜の膝の上で動く。
横で読むって話だったのに、これじゃ縦である。上下である。
部長は本に集中している。さっきまで真っ赤だった耳たぶは、もう普通の肌色。かわりに京夜のほうが、耳たぶを熱くしてしまっている。たぶん真っ赤っか。
部長をだっこして、京夜は本を読んだ。
ヤバいシーンから部長を守る、守護神となった。
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