41「ラブいの① だれとケッコンすんの?」
いつもの放課後。いつものKB部の部室。
僕の書いたGJ部の話を読んでいる部長が、不意に、口を開いた。
「なーなー」
「なんでしょう?」
「こいつ。この主人公ってサ――。誰とケッコンすんの?」
部長がそう口にした途端――。
「ぶふぉっ!?」
「はわわー!?」
紫音さんが激しくむせた。飲みかけのコーヒーが噴出していた。
恵ちゃんが紅茶基地で悲鳴をあげていた。
「あう。」
綺羅々さんのクレヨンがぽきりと折れていた。
「はっ――!? なんですか! なんなんですか!? やるですか! タマやってやるですよーっ!?」
タマが昼寝から目覚めて、周囲にケンカを売っている。
「なんだよその反応?」
「部長が変なこと言うからですよ」
「オレはただ、この主人公は、誰とケッコンするのかなー、って、そう聞――」
「げふっ。げふっ。げふっ! ――えふっ!」
「紫音さん! 死なないでー! 死んじゃだめーっ!」
紫音さんがむせつづけている。恵ちゃんが花柄のタオルを持ってあたふたとしている。
「おまえら……? 変だぞ?」
「部長こそ。チューとかそういうの苦手なくせに、なんでそんな核爆発言、決めますか」
「ばっ! ばかっ! チューは禁止だ! そーゆーエロいのは禁止だっ!!」
部長はそーゆーのに免疫がない人。キスシーンのあるマンガも小説も絶対手にしない。
「だったらケッコンとか、そういうほうがもっと過激じゃないですか」
「……え? なんで?」
あ。わからないんだ。この人。僕は瞬時に理解した。理解してしまった。
「じゃあ、まあ……。それはいいとしても……。生々しい話題はやめてくださいよ。GJ部の話に出てきているの、僕らのアバターですよね?」
「話のなかの登場人物だろ」
「いやー? でもー? ほらー? 性格は、まんま、僕らのパクリなわけでー?」
僕は皆に顔を向けた。
ようやくむせるのが終わった紫音さん。折れたクレヨンを茫然と眺めている綺羅々さん。恵ちゃんは、僕と目が合うと、はっと視線をかわした。耳たぶが、真っ赤っか。
紫音さんがむせたのも、綺羅々さんがクレヨンを折っちゃったのも、たぶん同じ理由からで……。あとは……。
「タマは?」
「な、なんですか? なんなんですか? タマはセンパイなんか、なんとも思ってませんよ。自意識過剰じゃないんですか」
あー。うん。はい。わかりましたー。タマもこっち側だよね。
「だからおまえら、現実と一次元とを混同すんなや。オレが聞いたのは、このGJ部キョロってキャラは、いったい誰とケッコンするのかってーコトであって」
「だからなんでいきなりケッコンになるんですか。そのまえに……、ほ、ほらっ、色々とあるじゃないですか」
「う、うむ。特に私は、その〝婚前における交渉近辺〟に甚大な興味があるわけだが」
「紫音さん! 紫音さん! それアウト! アウトですから!」
「官能作家になにを言う」
「わたしもー。興味ありますー。甚大ですー。わたしが思うに、この恵ちゃんっていう娘がぁ、いちばんラブいと思うんですけどー」
「いいやメグ。ラブいといったら、この紫音だって相当なものだろう。これ単なる後輩に対する可愛がりじゃないぞ?」
「私は、いちばんラブいのはこちらの真央のほうだと思うんだけど」
「イヤイヤイヤ。ないないない。あれは鍛えてやってるだけだろ。なんだっけ? GJ部魂? そーゆーのを」
「きらら。も。らぶい。よ。」
「タマは……、ミソッカスでいいデス。今回はそれでいいデス」
なんかみんな、生々しい話題にずけずけと踏みこんでいっている。腰が引けてるのはタマ一人。
「あのですね。皆さんそんな不謹慎な目で見ていたんですか。読んでいたんですか。GJ部を。これは健全なゆるふわ4コマ小説なんです。恋愛成分とか一切入っていませんから」
「バカメ。感想は読者のものなのだ。作者風情が読者である我々の感想にケチをつけるな」
「はい。作者風情、言われましたー」
「作者は黙ってつづきを書け。ラブいかどうか。誰がいちばんラブいか。我々が判定する」
僕はGJ部を書くことになった。
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