37「最終回、のつづき」
「なーなー。アレ書けよ」
「どれでしょう?」
いつもの放課後。いつものKB部の部室。執筆中の僕に、部長が突然、そう言った。
「アレのつづき」
「いもーてぃ部だったら、このあいだやった【やった:傍点】じゃないですか。皆で堪能したじゃないですか。もう成仏しつましたよね?」
このあいだの「いもーてぃ部」の日は、さんざんな目に遭った。いつも作中でやってたことを、リアルでやると、あんな恥ずかしいとは思っていなかった。いやまあ……。恵ちゃんや紫音さんや部長や綺羅々さんや、オマケにタマまで――皆で「お兄ちゃん♡」と甘えてくるのは、ただ恥ずかしいだけでなくて、うれし恥ずかしいという感じだったけど。
「いやアレではなくて、ちがうアレ。異能戦士のやつ」
部長はどうもあの超能力の話がお気に入りの様子。どうしてかはわからないけれど。
「あれは最終回迎えました。つづきなんてムリですよ」
「イヤ最終回迎えていようが、編集長が〝書け〟といったらつづきを書くのが作家だろう」
「そんな無茶な。だいたいどう続くんですか。地球消滅して、全員、討ち死にですよ?」
「転生した来世で、つづきやればいいじゃんよ~」
「いいですか、編集長?」
「誰が編集長だよ」
「どのへんが気に入ったんですか? あの話?」
「いやべつにオレ、気に入ったとか言ってないし」
「じゃ、やっぱりこの話はなかったことに」
「ああゴメン! じつは気に入ってた! オレに超能力があるところ!」
「部長が超能力者なわけではなくて、あの話の中の部長が超能力者っていうだけですが」
「どんな超能力持ってんの? 一話しかねーし、ロクに書いてねーし」
「部長の能力は、念動力です。地球最大の念動力者です」
「ウオー! 念動力! サ、サイコキネシスってやつだな!? そして地球最大!」
「あ、言っときますけど。身長はそのままですよ。ミニサイズですよ。
「ミニサイズゆーな!」
べしっと、上から下に頭が打ち抜かれる。上履きを揃えて置き直し、部長は僕にぐいっと顔を近づけてきた。
「んで!? んで!? 地球最大で!? それどんくらいスゲーの?」
部長。カオ近すぎです。間近で見るとよくわかる。この人、本当に美少女なんだよねー。
「そうですねー。その気になれば大陸を浮上されられるんじゃないでしょうか」
「うおー!! スゲー!! 半端ねえーっ!!」
「部長は念力だけしか超能力を使えないんですが、そのかわりに出力は半端ないです」
「一点豪華主義だな!」
「でも大出力なだけに、細かな制御は苦手で、日常的なことで超能力は使えないんですよ。家が吹き飛んじゃいますので」
「うむ! 選ばれしチカラには、そのぐらいの制約がなければッ!!」
「ねえ紫音さん? なんで部長、こんなにエキサイトしているんですか?」
僕は真央学の第一人者であらせられるところの紫音さんに、そう聞いた。
部長のカオが、さっきから近すぎ。キスするくらいの距離。したことないけど。
「真央は昔、超能力に憧れていたことがあってね」
「あっ――てめ! シイ! それバラすな!」
「超能力開発をしていたこともあるんだ」
「それは本当にバラすな! やめろ――やめて! 泣くぞっ!!」
部長が悲鳴をあげている。
「身についたんですか? 超能力?」
「身につかなかった……。ローソクの火も揺れなければ、コンパスの針も動かなかったよ」
部長はしょんぼりと肩を落として、そう言った。
「気にする必要はないと思うよ。真央。特別な人間になりたいというのは、誰でも思うことだからね。特に思春期の頃には。超能力という天からの授かり物により、偶発的かつ安易に特別になりたいという欲求は、ごく自然なものといえる」
「おまえ。言葉の端々に、すんげー毒が見え隠れしてるんだけど。猛毒だよ」
「部長も普通なところ、あったんですねー。意外だなぁ」
「なんだ意外ってのは」
「いえ部長はもっと規格外かと。人と同じような問題で――自己実現、でしたっけ? 安易に労せず特別になりたいと悩んでいたとか、ちょっと親近感がわいてきました」
「おまえもかッ! おまえも草食動物の顔をして毒牙を持つイキモノかッ!!」
「かわいいね。真央は」
「同感です」
「よし! これから未来予知をする! 三〇秒後! おまえの腕には歯形がついてる!」
「部長それ予知と違――痛い痛い痛いです! マジ痛い! うっわ! ほんと痛い!」
部長に腕を噛まれた。甘噛みじゃなくて本気噛みだった。
痛い痛い。痛いです。降参降参。降参です。
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