36「新企画」

 いつもの放課後。いつものKB部の部室。

「う~ん、う~ん、う~ん……」

 僕はノートを前にしてうなっていた。

「うるさい」

 うなっていたら、消しゴムが部長方面から飛んできた。

 おでこに当たって、ぽんぽんぽん、と跳ねる消しゴムを捕まえて、部長に返す。

「悩むなら静かに悩め。さっきからうるさいぞ。だいたい〝う~ん〟とか本当に言うやつ、はじめて見たぞ」

「これ、僕は悩んでます、というアピールなんですよー」

「うざい! それ果てしなくうざい!」

「そうですか? じゃあやめます」

 部長に不評だったので、すぐにそう言った。でも悩んでいたのは本当のこと。

「……で。いったいなにに悩んでいるんだよ?」

 部長はそう聞いてくれた。やっぱり優しい。パソコン席の紫音さんがクスクスと笑っている。

「新企画で悩んでいるんですよ。ネタ……っていうんですか? 新しい連載の題材です」

「またはじめるのかよ。GJ部とGE部と、異能学園と海賊と、あと原始人もあるよな」

「異能学園は、あれ一発ネタですよ。最終回おわってますし。海賊の話と原始人は、レギュラー化するかどうしようか、考えているところでして」

「新ネタってーのは、どんなネタ、考えているんだ?」

「ええと……」

 僕はノートの一面にメモったアイデアのうち、丸をつけた一つに目を落とした。

「いもーてぃ部、とかですね」

「いも……? なんだそりゃ?」

「妹部です。妹的なカンジの部活です」

「なんかわかるよーな、わからないよーな気がするぞ」

「妹的ポジションに憧れるお姉様方が、素質ある一年生の男子を拉致りまして、お兄ちゃんにします」

「ますますわかるよーな、わからないよーな。……どうせオレら、そこに登場させられるんだよな?」

「ふむ。妹的ポジションだね。私は家ではリアル妹なけわけだが、年下のお兄ちゃんという存在は初体験だ。なかなか倒錯的であるし、興味あるかな」

 そう言った紫音さんに、部長が目を向ける。

「マジで? ……そういや、私はリアルでお姉ちゃんだからな。妹……は、やったことねーな」

 部長は小学三年生的な見た目でも、天使あまつか三姉妹の長女だった。恵ちゃんが次女で、中学生の聖羅ちゃんという子が三女で末っ子だ。このあいだ妹の霞から聞かされたのだが、なんと、うちの霞の親友であったらしい。世の中って狭い。

「お兄ちゃん、欲しいでーす!」

 恵ちゃんがそう言いながら、皆の前にカップを置いて、紅茶を注いでゆく。この話題がはじまって、まだ三分は経っていないと思うのだけど……。蒸らしも終えた完璧な紅茶が、なぜか出来上がっている。恵ちゃんの超能力だ。

「妹……。いるよ?」

 綺羅々さんが言う。

「キララ。おまえもおねーちゃんだったな。妹ポジって、どうなん?」

「ん。やってみたい。」

「いえ。べつに皆さんがやるわけじゃないですけどね。登場人物が妹ポジをやるわけで」

「タマはいつもとおなじコトしていればいいのですか?」

「まあタマはそうだね。おやつ食べる係だね。――って、だからべつにタマがなにかやるわけではなくて、登場人物が妹ポジをやるだけだからね?」

「その話は――、アレだな」

 部長が言う。

「うむ。アレだね」

「はい。アレですねー」

「ん。アレ。」

「アレなのです!」

 皆がそう言ってうなずいている。

「アレってなんですか? なんなんですか? 僕にもわかるように言ってくださいよ」

「その話は、読むよりも、やりたいってことだ」

「えーっ……?」

「よし! 本日、我がKB部は……、なんだっけ? いもーと部?」

「いもーてぃ部です」

「うむ。その、いもーてぃ部になる! 総員、妹準備!」

 部長の合図で、皆、一斉に髪の毛をツインテにする。

 本日のKB部の部活動は、妹部だった。

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