31「オレたち海賊になった!」

「オレたち海賊になった!」

 僕の書いた新シリーズを読み終わるなり、部長は、開口一番、そう叫んだ。

「はい。海賊です」

 僕はうなずいた。部長は喜怒哀楽、ぜんぶはっきりと、過剰なくらいに表現してくれるから、見ていて楽しい。読んでもらうと楽しい。

 今回の感情は喜怒哀楽のうちの「驚」――って、四文字のうちにはないんだけど。

「宇宙海賊っていう案もあったんですけど。まずはオーソドックスに普通の海賊でやってみました。俺の海は俺の海、おまえの海も俺の海――がモットーの海賊です」

「このグッドパイレーツ、っていうのは、なんなん?」

「ああ。海賊は海賊でも、良い海賊なんです」

「は? 良い海賊?」

「通行料はもらっていますが、かわりに安全を守ってます。また普通の海賊行為――積み荷の強奪、人の殺傷、あるいは捕獲しての人身売買、そういうことには手を出しません」

「うっわ。海賊ってひっでーやつなんだな」

「酷いことやってる部長ってのが、想像つかなかったものでして」

「部長ではない。〝船長〟と呼べ!」

「ノリノリですね」

「私は副長をやっているのかな?」

 部長の次に読んでいた紫音さんが、もう読み終わって、そう言った。あいかわらず紫音さんは読むのが速い。

「副長は物知りなんですよ。航海室は図書館にもなっていまして。本がたくさんあります」

「おや。私は海賊になっても本好きのようだね」

「副長のシオンさんには、言ってはならないことがありまして……。それは歳のことです」

「お? 弱点あるのか? いいぞいいぞ。こいつは完璧すぎるから、弱点のひとつぐらい

「言ってしまうと、それは、どうなるのかな?」

「マストから吊されます。タマが一晩吊されて大変な目にあいました」

「なんでタマですか! ひどいめにあう人柱はセンパイに決まってるですよ! センパイが人柱でタマは華麗に回避する側ですよ!」

「教えてあげてたんだけどね。うっかり口を滑らせて。――南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏」

「ひえーえぇぇぇ……、タマ死んじゃいましたよう……」

「あ。死んでない。死んでない。死んでないから。平気だよ?」

「これわたし……。エルマリアさんのほうなんですか?」

 次に読み終わった恵ちゃんが、そう言った。

「ああ。うん。〝メグミ〟だと、なんかこう、名前がファンタジーっぽくないよね。だからGEとおんなじ

「また女神転生きたよ。天上界の生物きたよ。駄女神きたよ」

「でもエルマリアさんからすると、これはGE世界の次の周なんで。だいぶ人間味が増えてきてるんですよ」

「お? みんな生まれ変わりなん? ここ? GEの次なん?」

「いえ。エルマリアさんにとってGEの次だというだけで。他の人にとってはGEの前だったりすることも」

「え? え? え? ……どうなってんの?」

「ふむ。時間というものは主観的なものであるから、異なる次元、ことなる世界において、時系列が守られるという保証はないわけだね。すると、どちらが先で、どちらが後、という考えかたも、ナンセンスということになるわけだね。ふむ。……大変に興味深い。

「わけわかんねーよ」

「深く考えないでいいですよ。部長。この話は、そういう設定ってだけなんですから」

「お……、おうっ」

「きらら。つおい?」

 綺羅々さんも読み終わる。

「ええ。はい。強いですよ。うちの主戦力ですよ。クラーケンとか出てきたときに大活躍します」

「クラーケン……って、なんか、タコの怪物だったっけ?」

「イカです。巨大イカです。船よりも大きいイカです。船の天敵です」

「すんげー。それやっつけんのかー。キララ。おま。つえーじゃん」

「んふ。」

 綺羅々さんは喜んでいる。

 じつは綺羅々さん、体は大きいし、力持ちでもあるんだけど、非常に引っ込み思案な性格で……。そのせいなのか、強いものに憧れたりするらしい。動物のなかではトラが好き。ライオンじゃないのかなー? と思って聞いてみたら、「トラ。のほうが。強い。」とのこと。

 そんなわけで、僕は創作物の中では、綺羅々さんを凄く強くしている。

「おま。これ。いいじゃないか。GP部。これの続きもっと書けよ」

「はい。書きます」

 どうやら新シリーズは好評のようだった。ちょっと不安だったけど。よかったよかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る