30「超能力」
いつもの放課後。いつものKB部の部室。
部長は僕の書いた「GJ部」を読んでいる。もうすぐ読み終わる。
読み終わった部長が、どんな感想をくれるのか、僕はマンガを読みながら待っている。
べつに、そわそわなんてしていない。していないったら、していない。
「おい」
部長が声を発した。僕はマッハで顔を向けた。
「なんでしょう?」
「ずるいよな」
「は? なにがずるいんでしょうか?」
部長が言ったことが、僕にはわからなかった。べつに今日の話はそんな内容でもなくて、GJ部のみんなには特技があるよねー、という内容の話で――。
「GJ部のみんな、超能力、持ってるじゃん。でも私だけ、なんもないのな」
「は? 超能力?」
「シイのやつは、なんか〝ゲームの天才〟とかじゃん。スゲーじゃん」
「ええまあ。紫音さん……、GJ部のなかの紫音さんのほうですよ? ――は、すごいですよね。ゲームの天才で。物知りで」
僕は同意した。「紫音さん」と呼ぶと、こっちの紫音さんが「なにかな?」という目を向けてくるので、GJ部のほうであると断りを入れておく。
GJ部の紫音さんは、ゲームならなんでも達人の「ゲームの天才」なのだった。たとえばチェスなら学生でプロデビューしてデビュー後30連勝しちゃうぐらいの感じ。あと完全記憶の持ち主で、一度見聞きしたことは絶対に忘れないし、一冊の本を読むのにかかる時間は、なんと五秒フラットであったりする。
「キララも、なんなのこの身体能力? 握力は測定不能? ジャンプで二階まで跳べる?」
ばしばしとノートを叩いて部長は言う。
「――おいキララ。おま。百メートル何秒だ?」
「ごじゅう。めーとる……。なら。六びょう。だい?」
綺羅々さんはくちびるに指先をあてて、思い出すように言った。百メートルのタイムなんて体育の時間に計らないから、そっちしか、普通はわからない。
「ほらみろ。陸上部から声が掛かるっつーたって、現実じゃ、こんなもんだ」
部長は鼻息も荒く、そう言った。
「あとメグだって、なんだこりゃ? 《天使アイ》って?」
「ああそれは、世の中のあらゆることが美談として映る、汚れなき天使の目です。心が清らかすぎちゃって、悪い気持ちとかわからなくてスルーなんですよ」
「おま。美化しすぎ。夢見すぎ。おまえは知らんだろうが、メグだってうちじゃあ――」
「お姉ちゃん! それは言わない約束です!」
恵ちゃんがうちでは――なんなんだろう? 気になるけど、聞いたら怒られるよね。
ちなみに恵ちゃんはそろそろ紅茶を淹れ終わるところ。この話題が始まって三分は経っていないと思うんだけど、紅茶の蒸らしも終わっているし……。そもそもどうやって、お湯を沸かしはじめているのだろう? お湯が沸くには何分もかかるので、恵ちゃんは紅茶が必要なことになることを、数分前に「予知」していることになるんだけど……。
この超能力は、GJ部もKB部も、どっちの恵ちゃんも持っている能力だ。
「タマのやつだって霊能力を持ってやがるし」
「タマのうち神社ですケド。べつに超能力ないデスよ? 巫女やりますけど、バイトです」
「ほうらミロ! ほうらミロ! 現実のモデルはこうなのに! なんでGJ部のこいつらは、こんなに超能力者揃いなんだ!」
「なぜ部長はそんなに勝ち誇っていらっしゃるのでしょう?」
「勝ち誇ってんじゃないよ! うらやんでんだよ!」
「じゃあなぜ、うらやんでいるのでしょう?」
「なんでいきなりカウンセリングがはじまってんだ?」
「部長はつまり、GJ部の自分がなにも異能を持っていらっしゃらないので、自分もなにか異能がほしいなー、と、そういうことですか?」
「はじめからそう言ってンだろ」
「でもGJ部の部長が異能を持っても、KB部の部長は異能持ちになりませんよ?」
「いいんだよ。夢だよ。オレのアバターの異能。考えろよ」
「そうですね……。部長は、じゃあ……噛みます」
「それのどこが異能だよ! オレだって出来るよ!」
「じゃあ、小学二年生に化けます」
「だからどこが異能だよ! オレだってやってるよ!」
「このあいだのアレは、化けてたんですね。どうりで小学生に見えていたわけですね。目の錯覚じゃなかったんですね」
「そんなこといいんだよ! はやく異能設定を考えろよ!
「じゃ、じゃあ……。《暗黒の部長力》が使えます」
「お? なんだ? なんだそれは? なんかスゲー異能っぽいぞ!」
「それはこれから考えます。――あるいは
本日のKB部の部活動は、部長の異能を考える回だった。
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