29「タマの創作」
いつもの放課後。いつものKB部の部室。
コタツ様もお亡くなりとなって、広々となった和のスペースは、昼寝をするのに最適な場所だった。畳の上でごろごろとしていると気持ちがいい。窓は全部開けられて、風がすうっと吹き抜けてゆく。
ごろ寝を満喫していると――。突然ふっと、影が落ちてきて暗くなった。
目を開けてみると――タマが上から見下ろしてきている。
「タマの大事なものを奪ったセンパイに仕返ししてやるのですよ」
「は?」
上から見下ろしながら、そんなことを言うタマに――僕は思わず聞き返した。
「昔。タマは天使だったのですケド。下界に降りてきたときに、赤ちゃんだったセンパイに天使の輪っかを奪われちゃいまして。それで天界に戻れなくなって、人間になって生きることになったのですよ」
「え? ええーっ?」
なに言ってんのーっ!?
「だからタマはセンパイからも大事なものを奪ってやるのです。具体的には、ポテチ貢がせるです」
タマは真顔でそんなことを言う。
「いやポテチはそんなに大事じゃないけど。いつもお金出してんの僕だけど」
僕は身を起こすと、そう言った。
これは遠回しにポテチを催促されているのかな? ……と思ったので、カバンを引き寄せて、ポテチを出す。
タマに渡そうとすると、突っ返されて、「あけてあけて」と、やられたので……。しかたなく、袋を開けてあげてから、もう一度渡す。
僕。ポテチ買って貢ぐ係。袋も開ける係。
タマ。食べる係。
妹なんて、リアル妹一人で充分なんだけどなぁ。
お菓子の袋が開くと、部室のあちこちから、さささーっと人が寄ってくる。
タマが手づかみでバリボリ数枚食べる脇で、部長も紫音さんも綺羅々さんも、一枚ずつ摘まんでご相伴に預かっている。
タマ以外の人とは、ギブアンドテイクの関係だ。部長からはたまにポッキーのお返しがくる。紫音さんからは、たまに豪華お重弁当のおかずをトレードしてもらえる。綺羅々さんからはお肉――が来るのは、あれは「GJ部」の話の中だけのことで。現実のKB部のほうだと、飴ちゃんがくる。綺羅々さんの大きなポケットの中には飴ちゃんが入っている。最近、公園で手製の「かみしばい」を子供たちに見せて飴ちゃんもあげているとかで、綺羅々さんのポッケの中には、いつも飴ちゃんが搭載されている。
「はーい。お茶が入りましたー」
恵ちゃんが紅茶番長の例の超能力を発揮する。皆の団欒が始まってほとんどタイムラグなしに紅茶が出てくる。紅茶って何分か蒸らしたりする必要があるんだけど。あと、お湯を沸かすのにも何分かかかるはずなんだけど。……いったいどうやっているのやら。
「――で、なんだって? タマのやつが元天使? 輪っかを奪ったキョロに、絶賛復讐中なう? ――とか言ってたっけか?」
部長がばりっとポテチを噛み砕いてそう言った。
「――という話を書いたのですよ」
「ああ……。なんだ……。小説の話ね」
僕はほっとした。なるほどそれなら納得がいく。
ちなみに仮説その1。タマが痛い人になっちゃった! 中二病に発症してしまった。高校一年生にもなって恥ずかしいことに。どうしよう? どうする?
仮説その2。万が一にも、もし本当だったら? そういえばタマって不思議なところがあって、なんか納得できちゃえる。
「タマがようやく部活動――小説を書くようになったのはいいんだけど。でもね? なんで人を出しちゃうのかな?」
「おまえが言うか。おまえがそれを言うのか」
「さもありなん」
「るる。」
「今日の紅茶は、ヌワラエリヤなんですよー」
「小説、ってゆーのは、知り合い出すやつじゃないのですか?」
「こいつの場合は、そんなご大層なもんでもないぞ。単にサボってるだけだ。キャラが作れないから、リアルから借りパクしているだけだからな」
「部長。身も蓋もないですよ。せめて〝作風〟とか言って欲しいですよ」
「タマ、小説ってのはセンパイのしか読んだことないから、そういうものだと思ったです」
「ほら。おまえの責任だぞー。どうする? どうするーっ?」
「責任持って読みますよ」
その日の部活動は、タマが初めて書いた小説を読んだ。タイトルは「駄天使タマ」。
でもこれって言ったほうがいいのかな? 言わないほうがいいのかな? 本当は「堕天使」って書こうとしたんだよね? でも「堕」が「駄」になっているよね。誤字だよね。
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