28「オレたち異能戦士だったーっ!」

「オレたち異能戦士だったーっ!」

 いつもの放課後。いつものKB部の部室。

 僕がノートに書いた小説「異能学園G・最終回」を読んだ部長が、大声をあげる。

 僕の書く小説は、キャラに関してはサボっている。部員の皆をモデルにして作中に登場させている。前は現実と一次元をごっちゃにするな、とよく言われたけど、最近は皆のほうがごっちゃにしはじめている。異能戦士だったのは、あくまでも作品の中の部長であるわけだけど――。

「ああ。部長は異能っていうほど凄いものじゃないです。単なる超能力ですんで。念動力ですんで。ただし星の自転を止められるぐらいの念力番長です」

「なんか専門設定キター! オレ番長だったーっ!!」

 けど、みんな楽しんでいるみたいなんで……。ま。いっかー。

 普段書いてる「GJ部」や「GEφグッドイーター」などと毛色の違う話を、ふと思いついて書いてみたら、なんか大好評だった。番長設定には、部長が特に喜んでいる。

「ほほう。私はハストゥールの末裔なのか。旧支配者たちの一柱だね」

「あはは。邪神。邪神。シイにはぴったりだぜー」

「ええと紫音さん。……それ名前とか、合ってましたっけ? ウロ覚えで書いているんで、なんか違っていたら教えてください。くとるふ? ――とかいうんでしたっけ?」

 紫音さんは博学でどんな分野にも詳しくて――。そんなすごい知識の持ち主を前に、付け焼き刃の僕は、ちょっと恥ずかしい。

「〝クトゥルフ〟というのが一応正しい呼称となるのかな」

「じゃしん……。の。しおん。かいたよ?」

 綺羅々さんがスケッチブックにクレヨンを走らせる。邪神・紫音を、なんとイラスト化。

「コミカライズ! キター!」

 部長にそう言われて、綺羅々さんは二ページ目を描きはじめる。異能学園Gは、いきなりコミカライズがはじまってしまった。

「わたし、これ? 堕女神……? なんですか? 駄目な女神さんですか?」

「ああそれは駄目なほうの〝駄〟じゃなくて、堕ちたほうの〝堕〟だから。本当は天界で一級管理神の転生女神をやっていたんだけど、人間に肩入れしすぎちゃって、神様を裏切って人間の味方についてくれたって、そういう設定で――」

「うむ。こいつはたしかに天上界の生物だな。姉として断言する」

「わたし。人間ですよう。怒ったりもしますし、ずるいことだってしますよー」

「具体的には、どんなことだ?」

「ケーキの切り分けで、こっそり自分のぶんを大きくしたりとか」

「なんと! そんな怖ろしいことをしていたのか! だからおまえはそんなに体重が――」

「太ってないです太ってないです! 適正です! ぜんぜん大丈夫です!」

「タマ、ミソッカスでなくて、ほっとしたですよ」

 いつもいつもミソッカスで、可哀想かなー、と思ったので、今回ちゃんと出番を作った。

「タマはテレポーターなんだよね。部長と同じで単なる超能力者のほうね」

「べつにタマ、なんでもいいですよ。出番があるなら」

 皆のあいだを一周終わった大学ノートを、部長はまた読んでいる。二回読んでくれるなんて、相当、気に入ってくれたっぽい。

「――んで。つづきは?」

 ひょいと、小さな手が、上を向いて出てくる。

「ないですよ」

「なんですと!?」

「最終回って、書いてあるじゃないですか」

「つづきないのかよ! なんでいきなり最終回なんだよ! つづき書けよ!」

「いや無理ですよ。地球。なくなっちゃってますし。みんな死んじゃってますし。ほら――来世で一緒だぞー、って、そう言って終わっているじゃないですか」

「なるほど。これの続きが、つまりGJ部でありGE部であるわけか。生まれ変わって、また一緒に仲間をやってるわけか。――そういうことか!」

「いやGEのほうは〝部〟じゃないですけどね。……ああ、まあ、そういう解釈もできますね。……ああそっか。だからほら。登場人物がみんな一緒なんですよ。うん。これは手抜きじゃないんですよ。必然だったんですよ」

「ふむ。興味深いね。この異能学園時空が、すべてのはじまりであり、物事の〝原点〟というわけだね。するといま我々のいる時間線。これを仮に『KB部時空』と呼称しよう。このKB部時空もまた、その〝来世シリーズ〟のどこかに位置づけられるわけだね」

「お? なんか難しい話がはじまっちまったぞ? エセエフ? とかいうやつか? オレそーゆーのパース。――おいメグ。お茶くれー」

「はーい。すぐ淹れますねー」

「……あははは。いやだなぁ、紫音さん。これフィクションですってばー」

「ふふふふ。……君はまだ思い出していないのかな? 〝前世〟での出来事を?」

 意味深な目で見つめられる。僕は一瞬、どきっとした。

 でも引っかからない。紫音さんはいつもこうして僕をからかってくるのだ。

 だからフィクションなんですってばー。

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