27「タマとデート」

「なんでですか、なんでなんですか、なんでタマ、センパイとデートしなくちゃならないのですか」

 いつもの日曜。いつもの仙川駅前。

 15分も遅れてやってきたタマは、いきなりクレームから入った。

「僕もそれ、なんだかよくわからないんだけど。現実と二次元? あるいは一次元を混同? ――的なカンジで、GJ部のローテーションとKB部のローテーションのカンケイ? みたいな?」

「なに言っているのか、さっぱりわからないですよ。センパイ、ダメダメですよ」

「あと、ここのとこ重要だからきちんと聞いて欲しいんだけど。今日のこれはデートじゃなくて、デート的なナニカ? ――っぽいよ? そこ間違えると? かなりキケンだよ?」

「なに言ってるですか。男子と日曜に待ち合わせして遊んだらそれは完璧にデートですよ」

「あ。いちおう男子扱いされてたんだね。僕」

 そこにちょっとびっくりする。女子ばかりの部活に一人だけ男子なので、五人姉妹の弟的なナニカだと思っていた。

「だいたいタマはいつもミソッカス扱いなのに。なんで今回だけ順番あるですか」

「ええと、それ……。現実と二次元ないしは一次元を混同するっていうやつで……」

 〝ローテーション〟というのは、京夜の書いている創作小説「GJ部」のなかにおけるイベントだ。部長にはじまって、紫音さん、綺羅々さん、恵ちゃん、と続く。タマの番はだいたい飛ばされる。それがGJ部のローテーションというものだ。

 しかし京夜たちが在籍する創作小説部の「KB部」のほうでは、べつにそんな順番は存在していないわけだが……。

「デートするならタマとかじゃなくて、アンコとかとしやがれですよ」

「アンコちゃん? タマの同級生だったっけ? ……なんでそこ、いきなりアンコちゃんの名前が出てくるの?」

「だってアンコ、いつも『タマの部活のセンパイ素敵でいいよねー』って言ってるですよ」

「うえっ? 素敵? 誰が僕が? ……ああそれ、素敵って、部長とか紫音さんとかの間違いじゃないの? ほらセンパイって言ってるだけで、どのセンパイか言ってないよね?」

「アンコにはセンパイの話しかしていないですケド」

 ……あれ? なんか風向きが変なかんじ……? 

 最初は、不機嫌なのかと思った。けどそうじゃなくて――。

 服の裾をぎゅっと掴んで、もじもじやって、そして僕が何か言うのを待ってる感じ。

 リアル妹持ちとして、14年の功夫くんふーを積みあげた僕の〝直感〟が、いま起きつつある事態を正確に捉えた。

「よく似合ってるよ。その服。中学生みたいで」

「最後の一言は余計デス。……っていうか。まあそーゆーコーデにしてきたんですけど。間違ってもデートなんかに見えないように、〝お兄ちゃんと妹〟ってカンジになるように」

 ……うん?

 〝服を褒めろ〟のサインだったのは読み取れたけど。妹コーデ? なんで?

「タマのとこ。弟妹弟妹おとうといもうとおとうといもうとって、たくさんいるのですよ。タマ長女なのですよ」

「うっそぉ」

 タマはKB部の部活動においては妹的ポジションにあった。それがリアルでは五人姉弟の一番上だとか、想像もつかない。タマは生まれたときから妹ポジションだと思っていた。生態系の頂点に立つ強者だと思っていた。

「こんなことでウソ言ってどうするのですか」

「それ小説に出していい?」

「ダメって言っても、どうせ出すじゃないですか」

「うん。書くけど」

「センパイって、小説に関することでは、割と容赦ないですよね」

 世の中に発表する小説なら、人のプライバシーとか勝手に書いたりしないけど。でも部のみんなで回し読みするだけの小説なのだから、これはつまり、タマの姉弟構成を皆に言うのと、ぴったり同じだけの意味しかない。

「というわけで、今日はセンパイのおごりです! タマは妹気分を満喫するのです!」

「というわけで――の部分が、まったく、わかんないんだけど」

「センパイはリアル妹とデートするとき、ワリカンにするダメな兄なのですか」

「いや妹とはデートしないけど。妹連れてどこかに行くときにはオカンにもらうけど」

「うっわ最低」

「たかってくるニセ妹から最低呼ばわりされましたー」

「ま。ワリカンでもいいですケド。……かわりに〝お兄ちゃん〟って呼ぶデスよ?」

「だからその〝かわりに〟っていうところ、まるでわけがわかんないだけど」

「さー、いくですよー。お兄ちゃん♡」

 腕を取られる。

「兄と妹は腕を組んだりしないと思うんだけどー」

「うるさいですよ。お兄ちゃん。今日はタマが妹的にワガママを言うターンなんです」

「いつもワガママ言われてる気がするんだけどー」

 本日のKB部の課外活動は、タマと兄妹だった。

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